もう一度、彼女の行動を振り返ってみると、「信じること」から「頼ること」への橋渡しの意味が見えてきます。彼女は懐を開いて得た信用をもとに、それを現在の文脈――様々な国の人が集まるグループワーク――に転用しました。ただのプライベートの一面でしかなかった母親像を、チームリーダーとしてメンバーへ配慮できる「今ここにいる私」に拡張した、とも言えます。それは同時に、それが自分の長所であるとアピールすることでもありました。自分には何ができるのか、何が得意かを相手に知らせることで、「頼ること」を獲得したのです。信頼を得るとは、彼女の一連のこうした行動によってもたらされていたわけです。
さて、改めて「信頼」とは何だったでしょうか。「信じて頼りにすること」でした。そこには、①信じること、②頼りにすることという2段階の動きが見られますが、ここで重要なのは、どのようにして信じるか/信じてもらうか、さらに、いかにして「信じる/信じてもらうこと」と「頼る/頼られること」は繋がるか、の2つです。
前者について、彼女は自らのプライベートを共有することで信用を獲得していました。そして後者について、今度はその信用を「今いる文脈」に持って来て、長所として認識してもらっていました。相手が「わたし」の長所を知っているということは、「わたし」が役に立てる部分を相手が知っているということであり、相手は「わたし」を頼りにするということを意味します。したがってここに、信頼の構築を見ることができるわけです。