新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
第9章は「人が去るということ」と題してお送りします。
新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
第9章は「人が去るということ」と題してお送りします。
(このエピソードは、前回からの続きになっています。バックナンバーからご確認いただけます。)
「私たちの生活は何も共有していなかったから」
何か月も連絡を取らなかった理由を友人からそう言われた私は、何と答えれば良いかわかりませんでした。当時の状況を鑑みれば、私たちは「プログラム」以外何も共有していなかったのは確かです。でも同時に、「何も共有していない」という現在が、「何かを共有していた」過去をまるでなかったかのように扱ってしまうことに、違和感を隠すことができません。友人関係とはそのように「いま・ここ」を軸にして、回っていくものなのでしょうか。
そう1人で悶々と考えていると、彼女はこう聞いてきました。
「逆にどうしてメッセージしなかったの?」
「正直わからない。でもそこがこのトピックを語る上で面白いところだと思う」
「多分、(私とメッセージでやりとりするよりも)楽しいことを見つけたからじゃない?」
私はドキッとしました。私にとって彼女が「去っていった存在」であったと同時に、私自身もまた彼女にとって「去っていった存在」なのです。私は自分自身の「痛み」を出発点にこの対話を始めましたが、彼女もまたその痛みを抱えていたのかもしれません。そう考えると、この問題は、決して一方向に流れていく作用なのではなく、人々の相互作用の中で明らかにされるべきだとわかります。
さて、彼女は私が去った理由を、「もっと楽しいことを見つけたから」だと言いました。確かに、私はプログラムが終わって、元の生活に戻りました。サークル活動に精を出したり、留学の準備が本格化したりと、多忙な日々を送っていたのです。やはり、私はただ「忙しい」という理由だけで、彼女へ連絡を行わなかったのでしょうか。私自身もまた、「いま・ここ」だけを生きていたのでしょうか。
私は確かめる必要がある、と思いました。もし、互いが互いを去り、「いま・ここ」を軸にして生きるのだとすれば、私たちはもはや「友人」同士とは呼べないのではないか。今、私たちは「何」だろうか。
「じゃあどうして僕らは友達としていられるの?」
「世の中には、色んな種類の『友達』があって、毎日話す友達もいれば、ほとんど話さないけど、お互いをリスペクトしいてる『友達』もある」
なるほど、彼女も私も互いに連絡をしなかったのは、「互いをリスペクトしているから」です。連絡を取らないことは相手を気にしていないからではなく、むしろ、深いレベルで気にしているからだ、と。その意味で、私たちは「友達」なんだということです。
「ってことは、この関係性がそこで終わるわけじゃないってわかるからこそ、気持ちよく互いの人生から去ることができるってことだね」
気持ちよく互いの人生から去る。たとえ連絡を取らないという決断をしても、それが過去に共有した記憶自体を否定することにはならないのです。過去の重なり合った世界を力強く意識するからこそ、「いま・ここ」の繋がりを感じることができる。そうして、私たちは「いま・ここ」を生きながら、過去の記憶に深い愛情を寄せ続けているわけです。私は全く救われた気持ちになりました。「人が去る」という現象は一概に悪いものではないと知ることができたからです。
では、「痛み」とは何なのでしょうか。過去の記憶の抱擁を可能にするような別れが、なぜ痛みを生じさせるのでしょうか。言い換えれば、気持ちよく互いの人生から去ったはずなのに、どうして私の心には鈍い痛みが生じているのでしょうか。
この矛盾を、私は彼女に直接ぶつけてみることにしました。
(次回へ続く)
蛍光灯の軽い明りが、石の重みを際立たせるように
今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
永島郁哉
1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。
——Backstage from “ethica”——
今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。
連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。
ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。
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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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