新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
最近、雨を表す言葉にさまざまな種類があることを学びました。例えば、「白雨」。手元の旺文社の国語辞典によれば、「明るい空から降るにわか雨。夕立。」のことを言うようです。空が白んでいるときに降る雨。夏の時期には増えてくる光景です。
今回エピソードを共有してくれたのは、私の友人で、オーストラリア・メルボルン出身のカレン(仮)さん。メルボルンはオーストラリアの主要都市の中では比較的過ごしやすい街ですが、それでも夏は酷暑を迎えることもあります。もちろん南半球なので、夏は12~2月。今回のお話は、クリスマスに降った雨についてです。
「私の故郷は、日本とは違って、南半球に位置しています。したがって、メルボルンで言う『夏』は日本でいう『冬』。だからクリスマスも『夏』にあります。サンタクロースがビーチでくつろいでいる絵を見たことあるでしょう?私たちにとってサンタクロースは、砂浜に寝そべっていたり、波乗りをしている人のことなのです。
さて、話は逸れましたが、オーストラリアのクリスマスでは家族みんなで揃って食事をするのが定番です。日本のようにカップルで出かけることはあまりありません。私がまだ小学生だったその年も、私は祖父母を交えた家族と共に、クリスマスをささやかに祝っていました。オーストラリアではクリスマスにBBQをすることがあります。その日も朝から青天が続いていたので、グリル器のそばにテーブルを並べ、庭で食事を取ることにしました。
祖父母の家の裏庭。祖父は昔カーレーサーだった。
乾杯をきっかけに食事が始まると、テーブルの上にどんどんと料理が並べられていきます。ローストチキンだけでなく、イカやエビなどの新鮮な海の幸が食卓を埋め尽くしていくのに、子どもながら興奮していたことを覚えています。いや、私だけではなく、その場にいた誰もが一年に一度の貴重な時間を楽しんでいたのです。
しかし、会が進行するにつれ、雲行きが怪しくなっていきました。もちろん、その場の雰囲気が悪くなったという意味ではなくて、文字通り『雲行き』が怪しくなり、暗雲が立ち込めてきたのです。途端に辺りが暗くなり、湿気の匂いが漂ってきた瞬間、いきなり大雨が降り始めました。そこで大人たちは大慌てです。せっかくの食事が濡れてしまってはいけないと、大急ぎでお皿を避難させていきます。食卓を埋め尽くしていたプレートはあっという間になくなり、残ったテーブルだけが寂しく取り残されていました。
一方、その間私が何をしていたかというと、ただ走り回っていました。雨の降る庭を姉や妹と一緒に走り回っていたのです。大人たちが大慌てしているのってなんだか楽しく見えることがあるでしょう?普段はすまし顔の父親や母親、おじいちゃんにおばあちゃんも、必死でワーワー言いながら、雨に翻弄されているのが、なんだか滑稽に見えて、でもそれが可愛らしくて、私は興奮していたんだと思います。
私たちはそのまま10分も20分も庭で遊んでいたと思います。結局雨はただの通り雨で、その後すぐにBBQを再開することもできたのですが、大人たちはすっかり疲れてしまったのか、家の中からただ私たちが走り回るのを眺めていました。雨が芝生を濡らし、そして新しく覗いた陽がその雫をキラキラと輝かせていた光景を私ははっきりと覚えています。もわっとした湿気の中で、爛々と輝く芝生の上を走る私、一緒になって笑いこけている姉や妹、家の中からこちらを覗くおじいちゃんやおばあちゃんの微笑。そうしたものが全部幻想のように、私の心にずっと残っています。
あの日は私にとって特別な日です。これまでのどんなクリスマスよりも印象に残っています。あの雨こそが、そのクリスマスを特別にしたのです。」
雨上がりにかかった虹
私も子どもの頃、わざと雨に濡れながら遊んでいたことが何度かあります。肌に当たる水の感触が心地よく、だけどやってはいけないことをやっているような気がして、不思議と幸福感がありました。彼女のエピソードにも、雨とのそんな関係性が見えてきます。
雨に翻弄される人と、雨と戯れる人々。彼女の語りには、その対称性がとても美しく表れています。今年の梅雨、あなたは一体どちらでしょうか。
メルボルンの空
今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
永島郁哉
1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。
——Backstage from “ethica”——
今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。
連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。
ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。
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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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