株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から生まれたのでしょうか。今回は、ナチュレクチュールのデザイナーである石山麻子さんにお話を伺いました。
やさしい世界を、身に着ける。――「肌あたり」を追求する
ナチュレクチュールは、これまでのワコールのラインアップとは異なる雰囲気があり、スタイリッシュな商品という印象を受けます。
「まず意識したのは、お客さまが商品を最初に見た時に『かっこいい』『おしゃれ』と感じていただけるかどうかということ。テーマは、ナチュラルモダンやモダンシンプル。『自立した女性』をイメージして、従来のインナーとは異なるデザインにしました。いい意味で目を引くような商品になったのではと感じています。」
こう語るのは、デザイナーの石山さん。
今シーズンの新作グループでは、生地の表側に和紙繊維、肌側に綿とレーヨンを使用。和紙はさらっとしていて気持ちよい素材として知られていますが、なかには「ザラリとした手ざわりが気になる」という声も。表側と肌側で違う繊維を使うことで肌にふれる部分の「肌あたり」を改善し、幅広いお客さまが着用できるように配慮しています。
肌あたりへのこだわりは、縫製にも現れています。たとえば、ブラジャーのカップのふちの部分は袋状になっているということ。ごく普通のブラジャーでは縫い目が気になることもありますが、新作では肌にやさしくふれるようなデザインを採用しています。
快適な着用感とシルエットの美しさのために、ニット素材にこだわる
お客さまからの要望として「しめつけが少なくて快適だけど、シルエットがきれいなもの」を求める声が最近はとても多いそうです。そこで、今シーズンでもニットの素材を使用することに。ナチュレクチュールブラジャー用に特別に開発したカップを使用して、ノンワイヤーでもシルエットの美しさが出せるように工夫しています。
実は、ニット素材を使ったノンワイヤーブラジャー商品は製造工程の難易度が高まります。担当者や工場の人たちと力を合わせて、検討と試作を繰り返しました。その意味では、新作は「みんなの汗と涙の結晶」ともいうべき逸品です。
「お客さまに、環境にやさしい商品を届けたい。その想いだけで、一生懸命作ってきました」と石山さん。
続けて、石山さんはこう語ります。「ニット素材を使っていると、子どもっぽい印象になりやすい。自立した大人の女性を意識して『インポートのようなカッコよさ』を演出できるようにデザインしました。」
「やさしい素材」として、和紙や海洋生分解性レーヨンを選び抜く
人にも自然にもやさしいものを――。このポリシーは、素材選びにも通じています。商品の表側に使用している和紙の原料は、「マニラ麻」という植物。成長が早く短期間で再び収穫できるためサステナブルな素材と言われています。
また、和紙の繊維には、吸放湿性や抗菌防臭性があります。これによりサラリとした独特の風合いとともに、快適な着用感が生まれます。抗菌防臭性というのは、細菌の増殖を抑制し、いやなニオイを軽減する性質のこと。夏場はもちろん、厚着をするため蒸れやすくなる冬場にも、ぴったりの素材です。
天然の素材でこうした特徴を持っているのはとても珍しく、綿や合成繊維の場合、繊維加工や生地加工などの手間を加えないとこの特性は生まれません。
肌に直接ふれる内側の部分には、海洋生分解性レーヨンという特殊な素材を使用しています。
「環境にやさしい暮らしが気になる方々に、選択肢のひとつとしてナチュレクチュールの商品を手に取っていただきたいです」と石山さん。
新作のカラーは、アイリッシュネイビーとテラコッタベージュ、墨黒の3色。いずれもイタリアのシチリア島にある小さな町・チェルファーのシーカラーからインスピレーレーションを受けています。ひと際目を引くアイリッシュネイビーの色味は「海洋生分解性レーヨン」のイメージを表現しました。
生地を裁断する際に出てくる「裁断くず」は、ゴミとして捨てられるのが一般的。それに対して、ナチュレクチュールでは、設計段階で廃材を抑える工夫を凝らすとともに、こうしたくずを回収して糸に戻し、製品に再利用することを目指しています。これは「企画から生産まで」という一貫した姿勢でモノづくりに取り組んできたワコールだからこそできる取り組みです。
「普段の買い物が、環境保全につながっていた」という未来を目指して
「人と環境にやさしいインナーウェアを提案したい」という想いからスタートした、ナチュレクチュールのモノづくり。その一方で、エシカル消費に対する認知度やニーズの高まりとは裏腹に「コストやデザインは後回し」という流れも少なからずありました。こうした状況にあって、ナチュレクチュールは今後どんな未来を目指しているのでしょうか。
「環境に配慮した消費というと『何か特別なことをしている』という意識もまだまだ強いです。そうではなく、私たちは『何気なく買い物をしていたら環境保全につながっていた』という世界を理想としています。ナチュレクチュールを通して、そのお手伝いができれば」と石山さんはにこやかに話します。
環境に配慮した商品開発担当として、エコなことを日々考えているという石山さん。プライベートでは、ゴミを減らすべく簡易包装を実践したり、子どもと一緒に公園に遊び行くとゴミを拾って帰ってきたりすることもあるのだとか。また、不要になった大人の洋服をリメイクして子ども服を作ったり、生ごみを堆肥にしてガーデニングに活用したりすることもあるそうです。
石山さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」を尋ねてみると、具体的なお話とともに「子どもが生まれて、豊かな未来を残すためにどうしたらいいのかを今まで以上に考えるようになった」という言葉が返ってきました。
「モノづくりをする立場としての『つくる責任』と消費する立場としての『使う責任』が、頭のどこかにいつもあります。難しく考え過ぎずに、世の中がよい方向へと自然にシフトしていくといいなと思っています。」
デザイナー自らも人と自然にやさしい暮らしを実践するなかで生まれた「ナチュレクチュール」。快適な着用感やシルエットの美しさはもちろんのこと、「地球環境のために何かできることをしたい」と願う女性たちの期待にしっかりと応えてくれるに違いありません。
Wacoal [Nature Couture](ワコール[ナチュレクチュール])
石山麻子
株式会社ワコール 第1ブランドグループ ワコールブランド商品企画部 商品企画課
ニットパタンナー、ニット・ショーツ・GOCOCiのチーフデザイナーを担当。2020年に環境課題に向けたプロジェクトが発足し、環境に配慮した商品開発担当として招集され、現在ナチュレクチュールチーフデザイナー。
聞き手・萱島礼香
法政大学文学部卒。総合不動産会社に新卒入社。「都市と自然との共生」をテーマに屋上や公開空地の緑化をすすめるコミュニティ組織の立ち上げを行う。IT関連企業に転職後はwebディレクターを経験。主なプロジェクトには、Sony Drive、リクルート進学ネットなどがある。その後、研究機関から発足したNPO法人に参加し、街の歴史・見どころを紹介する情報施設の運営を担当した。2018年11月にwebマガジン「ethica」の副編集長に就任。
文・松橋佳奈子
早稲田大学理工学部建築学科卒。企業とNPOにてまちづくりの仕事に携わり、バックパッカーとしても35カ国を訪問・視察し、世界各地の風土と食文化について考察を深める。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)と国際薬膳師の資格を取得。現在は「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」の他、食やエシカル、ソーシャルビジネスについての執筆活動を行っている。
構成・大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業10期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。
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私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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