新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
前回、まさに幸福が神の領域であるからこそ、わたしたちはそれを学びによって備えることができる、というアリストテレスの見解を見てきました。「学びによって備える」は「行為によって性質を獲得する」とも言い換えられるかもしれません。
アリストテレスは、そのような行為によって得られた性質を「徳」と言っています。「徳」と聞くと、人間がもともと持っている自然本来のものという印象を受けますが、アリストテレスにとって「徳」は、行為とは決して切り離せないものなのです。
『ニコマコス倫理学』の第2巻第1章にはそのことが書かれています。
「たとえば、人は家を建てることによって建築家になり、竪琴を弾くことによって竪琴奏者になるのである。まさにこれと同様に、正しいことを行うことによって、われわれは正しい人になり、節制あることを行うことによって節制ある人になり、また勇気あることを行うことによって、勇気ある人になるのである。」(朴一功訳 2002: 58)
わたしたちは徳のある行動をするから、徳のある人間になる。一見当たり前のようですが、アリストテレスはここで「常に徳のある行動をすること=幸福に能動的に向かうこと」が重要だと強調しているわけです。
そして、人間は徳のある人間になることにより、さらに徳のある行動ができるようになります。行為と性質は密接な関係にあって、行動なくして性質は獲得できないと言えます。
では、その行動はどのような指針に従って行われるべきなのでしょうか。アリストテレスは人間の性格にかかわる徳を、「快楽」と「苦痛」に関するものだと指摘しています。つまり、人間の感じる快楽と苦痛を指標に行為をするべきだということです。
彼はここで、節制ある人は肉体的な快楽を控えることで、あるいは勇気ある人は恐ろしいことに耐えることで、喜びを感じられると言います。反対に、そうでない人は耐え忍んだり差し控えたりすることに苦痛を覚えます。
さらに、そうした快楽や苦痛には、よろこぶべきものや苦しむべきものが存在するとも言っています。そのために、若い頃から、何がよろこぶべきもので何が苦しむべきものなのかをきちんと指導してもらう必要がある、と言います。
この部分は、『ニコマコス倫理学』の中でもとても重要な部分だと、わたしは解釈しています。なぜなら、徳のある行動、ひいては幸福というのは、社会の中である程度共有されたものである、ということが言われているからです。
これまで、幸福の意味や、善の種類、そして徳について説明してきました。これらを聞いた人のなかには、幸福をめぐる生とは孤独なものなのか、と思った方もいるかもしれません。しかし、アリストテレスの考える幸福や善、徳はそうではありません。
むしろ、わたしたちの社会には共有されたものがあり、人はその中で幸福になるということを彼は主張しています。「幸福をもたらす徳」に対する他者や社会の必要性。これは、これまでわたしが述べてきた「ウェルビーイングの社会性」とほとんど同義です。
わたしたちは孤独な動物ではありません。人が幸福に生きるとは、社会的共有されたものを実践していくこと=行為することです。アリストテレスが示しているのは、わたしたち現代人が見失いそうな、「わたし」と「他者」の共有性かもしれません。
今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
永島郁哉
1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。
——Backstage from “ethica”——
今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。
連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。
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