ethicaがメディアパートナーとして参加した「サスティナブル・ブランド国際会議2022横浜」(SB 2022 YOKOHAMA)では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。その中で『真の「サステナブルブランド」のためのコミュニケーションとは 〜電通「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」(2021年12月発行)より』と題された講演では、株式会社電通から大屋 洋子さん(PRソリューション局 ソーシャルイノベーション部 チーフディレクター/「電通 Team SDGs」 SDGsコンサルタント)と籠島 康治さん(CXクリエーティブセンター クリエーティブ・ディレクター/ コピーライター「電通 Team SDGs」 SDGsコンサルタント)が登壇。今回はその内容をご紹介します。(記者:エシカちゃん)
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電通 Team SDGsが発行した「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」とは?
大屋: 今日は『真の「サステナブルブランド」のためのコミュニケーションとは』ということで、私たち電通 Team SDGsが昨年12月に発行した電通「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」の内容から皆さんにお話をさせていただきたいと思っています。
まず最初に、電通 Team SDGsについて簡単にご紹介させてください。
電通 Team SDGsは私たち電通グループ内の横断プロジェクトで、自社のSDGsの取り組みも行う一方で、いろいろな企業様、団体様とのコラボレーションの中でSDGsをより推進していくために立ち上がったチームです。
自社の取り組みとしては、定点的に実施している「SDGs生活者調査」のほか、バリューチェーン全体で取り組んでいけるような仕組みづくり、あと、昨日同じ時間帯に電通広告賞SDGs特別賞を取り上げたセッションがありましたけれども、こういった賞の事務局運営なども行っています。
これらの取り組みのひとつが、2021年12月22日に発行した「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」(※注1)です。2018年に「SDGsコミュニケーションガイド」を発行してから3年ほどが経ち、とりまく環境が劇的に変化してきていることからSDGsのみならず広くサステナビリティのコミュニケーションをしていく上での指針といいますか、よりどころになるものが必要であろうと今回のガイドを新たに作成、発行しました。
このガイドは、もちろん私たち電通メンバーだけで作っているわけではなく、さまざまな有識者の方にご協力をいただき、多くの知識や情報、世界の動きなどについてご教示いただきながら、試行錯誤して作成いたしました。どなたでも無料でダウンロードできますので、ぜひご覧いただきたいと思います。
(※注1)サステナビリティ・コミュニケーションガイド
https://www.dentsu.co.jp/csr/team_sdgs/pdf/sustainability_communication_guide.pdf
サステナビリティーの潮流を海外事例から読み解いていこう!
大屋: さて、ここからは、このガイドの内容をふまえながら、ご説明していきたいと思います。
まずはこの3年間でどんなことが変わってきたのか、背景の部分も含めて簡単にお話ししていきましょう。
ひとつ、ここ数年の変化を象徴している事例をご紹介させてください。こちらは、実はガイドの中には掲載していない海外事例なのですが…。
この事例について、籠島さんから解説をお願いしてもいいですか。
[オランダの事例]
籠島: こちらはオランダでの裁判の事例になります。オランダのトップ企業といえる石油関連の大きな会社があります。そちらが裁判所からCO2の大幅削減を判決として命令されたという事例になっています。
こちらのすごく特徴的な点は、気候変動が人権侵害であると裁判所が認めたというところなんですね。気候変動によって今、海面が上昇して、南の島とかではすごく困っているわけなんですけど、オランダも例に漏れず、海抜のすごく低い土地が多い国ですので、海面がこのまま上昇すると自分たちの財産権が侵害されることになります。それはすなわち、人権侵害であるという、そういった論理で判決が出たということになります。
オランダのトップ企業に対して、変動の責任はあなたのところにもありますよという判決が出たのはとても大きなことで、業界ではすごく話題になった事例になります。
大屋: 環境と人権は、今まで別のものだと思われていたと思いますが、実は環境問題が人権にも関係しているのだということが分かる判決だったということですね。
年表とともに振り返ろう「環境と人権」について
大屋: 次に、「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」の巻頭で掲出しているこちらの年表をお見せしたいと思います。
これをざっと見る限りでも、籠島さん、特徴的なのは人権と環境に関するものが多いということになりますね?
籠島: そうですね。サステナビリティに関するところは、やっぱり人権的な視点から見るか、環境的な視点から見るかということだと思うんですけど、この短い期間で、かなり大きな動きが出てきているというところですよね。
大屋: 環境だと、1.5℃のゴールの明確化などとても大きな動きがありました。この辺りはぜひガイドをご覧いただきたいと思います。
コロナ渦における生活者の意識の変化
大屋: そして、環境と人権に加えて、私たちの生活にすごく大きな影響を与えたのは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大でしょう。コロナによって生活者の意識にも変化が出ています。
こちらの調査データによると、地球環境や社会問題は決して他人事じゃないという方が8割以上、持続可能性について真剣に考える必要があると答えた方も約8割で、いずれも、その過半数がコロナを経験して感じるようになったと答えています。このグラフはガイド(※注1)にも載せていますので、ぜひそちらもご覧ください。
(※注1)サステナビリティ・コミュニケーションガイド
https://www.dentsu.co.jp/csr/team_sdgs/pdf/sustainability_communication_guide.pdf
楽観視できないサステナビリティーをめぐる状況
大屋: また、国連の資料によると、コロナによってSDGsの17のゴール1つ1つにおいても楽観視できない状況になってきていることがわかります。
生活者におけるSDGsの認知も上がってきています。電通 Team SDGsが毎年実施している調査(※注2)でも、SDGsという言葉の認知はもちろん、内容理解についても高い数値になっています。
世の中の人々のサステナビリティについての認知や理解、さらには自分ゴト化が進んでいることから、企業とか団体の動きについてもシビアな目で見られるようになっていると言えるのではないかと考えられますね。
籠島: そうですね。特にジェネレーションZの皆さんとか冷ややかに見ていらっしゃる方も多いと聞くと、ちょっとドキドキしますね。
(※注2)電通 Team SDGs「第5回SDGsに関する生活者調査」
コミュニケーションのあり方の変化
大屋: 昨日のセッションでもそういう話が結構出ていましたよね。そういった流れにおいて、コミュニケーションのあり方、レイヤーも変わってきています。こちらの事例について、籠島さん、ご説明お願いします。
[アメリカの事例]
籠島: こちらの事例は、世界で一番大きな飲料メーカーが自社のホームページや広告キャンペーンなどでサステナビリティを訴えるようなキャンペーンをやったところ、アメリカのいくつかの環境団体から訴訟を起こされてしまったというものです。その訴訟の理由としては、世界で一番大きい飲料会社だからということもあるんですけど、世界で一番大量にペットボトルのゴミを出しているのにサステナブルというのはどういうことなのかと。ざっくりいってそんな訴訟になっています。
大屋: この飲料メーカーさんは、実際にサステナビリティにつながることをやっているのは確かなんです。ただ、それを発信したところ、その前にまず企業のやっている全体を振り返ってほしいという世の中の声があったということかなと思います。
ガイドには、もうひとつ、コミュニケーションの変化に関する海外の事例を載せています。
[フランスの事例]
籠島: こちらもグローバルなメーカーさんなんですけど、フランスで消費者団体から訴訟を起こされたという事例です。この会社はホームページでサステナブルなサプライチェーンの責任ある管理について記載していたんですけど、実際には部品を組み立てている中国での工場の過酷な労働の様子などが漏れ聞こえてきていて、それに対して虚偽の掲載をしているんじゃないかということで訴訟を起こされたそうです。
大屋: なかなか厳しい世の中になってきたなという感じですね。日本では、まだここまでの事例はないように思いますが、世界に目を向けるといろいろな事例が出てきています。
生活者の関心や意識が高まってきていることに伴って、企業の環境や人権を含めたサステナビリティに関する発信に対して、本当に根拠があるのか、大げさではないか、といった目が向けられ始めている今だからこそ、私たちは「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」の必要性を感じたんですよね。
そして、今やサステナビリティへの取り組みは企業にとって必須であると言っても過言ではないと思いますが、それをしっかり発信していないと、せっかくやっていても、やっていないとみなされてしまいます。
先ほど、訴訟を起こされた事例などをお話しましたが、だからといって発信するのをやめるのではなく、これからはむしろコミュニケーションをしていくことが重要です。だからこそ、コミュニケーションを行う上で注意することや、やってはいけないことをしっかりと踏まえておくことが大切だと考えています。
籠島: 今回のタイトルが、真の「サステナブルブランド」でありつづけるためのコミュニケーションということで、注意点などをしっかり把握していれば、逆にコミュニケーションも安心してやれるんじゃないかということで、このようなガイドを作らせていただいています。
(中編に続く)
2023年1月1日の組織改変に伴い、大屋 洋子さんの現在の所属部署は以下となります。
株式会社電通 大屋 洋子(第4統合ソリューション局レピュテーションクリエーティブ1部 チーフディレクター/電通 Team SDGs コンサルタント)
株式会社電通入社後、マーケティング・プランニング部門において、食品・飲料・製薬会社を中心とした数多くの企業のコミュニケーション戦略立案、商品開発等を担当。2004年より消費者研究センター/電通総研にて、ウェルネス(健康・美容)・食育プロジェクトのリーダーとして従事。2010年より「食生活ラボ」を発足、主宰。 「食」というフィルターを通した生活者インサイトの発掘、ビジネス開発等を行うとともに、テレビや新聞をはじめとする各種メディアの取材、寄稿、講演依頼に対応。その他、飲料・食品関連企業の商品開発や各種セミナーの講師も務める。2016年より、農林水産省食料産業局企画課に企画官として二年間の任期で出向。「栄養改善事業の国際展開タスクフォース」事務局長として、途上国・新興国の栄養改善支援に携わる。2018年4月、帰任し現職。「電通 Team SDGs」SDGsコンサルタントとして、多数企業向けセミナーの講師などを務めるほか、「サステナブル・ブランド国際会議2021」にも登壇。
株式会社電通 籠島 康治(CXクリエーティブセンター クリエーティブ・ディレクター/ コピーライター/電通 Team SDGs コンサルタント)
株式会社電通入社後、各種業界企業の商品、サービスの広告制作をコピーライター、クリエーティブディレクターとして担当。一方で、社会課題に関するコミュニケーションに興味を持ち、社外でも活動。2009年にソーシャルデザイン領域のコミュニケーションに特化したチーム、電通「ソーシャル・デザイン・エンジン」が発足した際に、初期メンバーとして参加。生物多様性、途上国の給食支援、国産材活用、震災復興、農林水産業、防災などのテーマでコミュニケーションに携わる。現在、電通のラボ「うむうむ」を主宰し妊活、包括的性教育などをテーマに活動しながら「電通Team SDGs」SDGsコンサルタントとして企業向けセミナー、社内向けセミナーでの講師も務める。
電通のラボ「うむうむ」:スマホで読める性の教科書SEXOLOGY https://sexology.life
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2022横浜(SB 2022 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
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記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
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私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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