ethicaがメディアパートナーとして参加した「サスティナブル・ブランド国際会議2022横浜」(SB 2022 YOKOHAMA)では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。その中で『真の「サステナブルブランド」のためのコミュニケーションとは 〜電通「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」(2021年12月発行)より』と題された講演では、株式会社電通から大屋 洋子さん(PRソリューション局 ソーシャルイノベーション部 チーフディレクター/「電通 Team SDGs」 SDGsコンサルタント)と籠島 康治さん(CXクリエーティブセンター クリエーティブ・ディレクター/ コピーライター「電通 Team SDGs」 SDGsコンサルタント)が登壇。中編に続き、その内容をご紹介します。(記者:エシカちゃん)
SDGsウォッシュといわれないように広告表現で注意すべきこと
籠島: 同じく表現の制作をする過程で、今度は環境的な面になるんですけど、ウォッシュといわれないように、昔はグリーンウォッシュ、今はSDGsウォッシュといわれますけど、嘘とごまかしの部分です。
これはコミュニケーションをどうしてもドラマチックにしたいがために、少し誇張したりすることがよくあると思うんですけど、ことSDGsとかサステナビリティみたいなところでそれをやっちゃうと、すぐに逆風が強く吹くというか、場合によっては訴訟なんてことにもなりかねませんので掲載しています。
SDGsウオッシュが懸念される例
大屋: これも架空の事例ということになりますよね?
籠島: はい、そうです。
籠島: D2Airという架空の航空会社さんの広告で、地球にやさしい空の旅をということで飛行機が飛んでいるんですが、飛び方がハートのマークを描いているビジュアルになっています。
この架空の広告にはウォッシュが懸念される点がいくつかありまして、1つは地球にやさしいという表現で、これって具体的にはどういうことなんですかと突っ込まれがちなところです。ですから、アメリカのメディアのほうでは、最近はこういう表現を使わないようになっています。
それから、下のほうの細かい字で書いてある部分なんですけど、CO2の排出量は業界最低水準みたいなことが書いてあります。これもさっきいった、いやいや、そもそも飛行機で行くんでしょう、鉄道とかと比べたらCO2の排出量はすごく多いですよねという突っ込みをされることが容易に想像できますよね。それから、飛行機の軌跡をハートで描いていますが、こんな飛び方はしないわけで、それはイメージをよくするために嘘をついていますねというふうにいわれてしまう恐れもあります。
大屋: ガイド(※注1)の中にはもう1つ、ウォッシュが懸念される架空の事例を出しています。
こちらは、まず「カーボンネガティブ」という言葉の使い方について指摘できると思います。明確な根拠もなく、なんとなくこの水を飲むとCO2を減らしてくれそうなイメージを醸成していて、誤解を招きそうです。
また、採水地である森がCO2を吸収してくれるからといって、水が「カーボンネガティブ」といってしまうのも拡大解釈ですよね。
繰り返しになりますが、根拠がない、大げさ・曖昧な表現、それと、さっきの飛行機のハートもそうでしたが、無関係なイメージビジュアルの使用などは、ウォッシュとみなされる可能性があるので、そのあたりが気をつけていただくポイントかなと思います。
そして、SDGsコミュニケーションではSDGsのロゴやゴールアイコンを使うこともあると思いますが、そういう場合は、こちらの内容をご参照いただきたいと思います。
(※注1)サステナビリティ・コミュニケーションガイド
SDGsロゴを使用するときに注意すべきこと
籠島: 最近SDGsのコミュニケーションが増えてきていて、電通Team SDGsでもよくご相談をいただくのですが、その時にSDGsのロゴを使うという話によくなります。
ただ、国連が出しているあのロゴにはガイドラインがありまして、それに沿って使う必要があります。
次の例では下のところにSDGsのマークとゴールのアイコンが貼ってあります。例えば右のほうですね。ゴールのアイコンのところなんですけど、それぞれのゴールのアイコンにちゃんとした裏付けになることがあるんですかという突っ込みをされることがあると思います。
[日本の事例]
例えば、うちは教育に関わる仕事をやっているから4番目、とざっくり貼ってしまうと、ゴール4の中のターゲット何番に貢献しているんですかみたいなことを普通に聞かれると思うんですよね。なので、その辺までちゃんと確認してから番号を出すようにしましょうと電通Team SDGsではアドバイスしています。
それから、細かいですけど、今見えているこのロゴはちょっと古いロゴでして、この次のページで細かい違いをご紹介しています。2018年と2019年の2回変わっているんですけど、ひとつめはゴールのフォントが微妙に変わったんですよね。このGの字が少し細長くなっています。それからゴール10のアイコンは昔、クルッと丸い感じだったのが、全面的に変わっています。それから18番目のゴールといいますか、右下のところもホイールが入るように変更になっていますので、この豆知識を持って帰っていただければと思います。
大屋: SDGsのロゴは、実はこれまで何度かマイナーチェンジされていて、気を付けないとうっかり古いものを貼ってしまいがちなので、注意していただければと思います。
また、ゴールアイコンを使用するとき、よく17のゴールだけを見て判断されるケースがあるのですが、その裏にある169のターゲットまでしっかり見て、根拠としてつながるものがあるかどうかを確認してから貼るようにしていただくと、間違いがないかと思います。とにかく一番大事なのは、国連の規定を遵守(※注2)するということになりますね。
さて、ここまでは表現を制作する際の注意点をお話してきましたが、ここからは表現案ができあがった後についても、少しご説明したいと思います。
(※注2)SDGsのロゴやマーク、アイコンは、原則として商品やサービスの販売促進のためには使用できません。
表現案の確認
籠島: 表現案ができ上がったあとで気にすること、確認することなんですが、1つは制作した部署の人たちだけだと気がつかないこともあると思うんですね。なので、制作した部署以外の人たちにも見てもらうというのはすごく大事かなと思います。
もし可能であれば、有識者の方とかにも見てもらうといいかなと思います。ただ、普段の実作業では、出来上がったのが締切直前で確認の時間がないということがしばしばあります。なので、確認する時間を確保するというのがプロジェクトのマネジメントをする方の大事なポイントかなと思うので、ぜひお願いできればと思います。
大屋: 確認する時間も確保したスケジューリング、私も、胸に留めておきたいと思います。私たちもそうなんですけど、思い入れを込めて作っているとつい集中してしまって、広い目で見られなくなっていたり、ミスに気づけないこともありますので、いろいろな方にフラットな目で見てもらうことは大事ですね。世の中に出す前に、有識者や、NPO・NGOの方に見てもらうことができれば、安心です。
籠島: さらに、コミュニケーションをしたあとのことなんですけど、ここはわりと、当たり前のことが書いてあります。
何か反応があった時にきちんと誠実にお答えしていくとか、スピーディにレスポンスするみたいなことはもちろん、一方通行にならないように来たら返す、また来たらまた返すということをしっかりやること、
そして、事前に準備できることとしては、考えられる反応はもともと準備しておいて、もし、こういう問い合わせが来たら、このデータを出そうとか、その辺まで決めておけばいいのかなと思いますし、さらに大事なのは何かあった時のレポートラインですね。上のほうに上げていくラインも確認しておくと、すぐに対応できるように準備ができるかなと思います。
大屋: コミュニケーションした後の対応について、ひとつイギリスの事例をご紹介したいと思います。
[イギリスの事例]
籠島: はい。グローバルな日用品メーカーさんです。すごく真摯にやっていた企業で、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)という団体をインドネシアに作るのにも関わっています。
そのメーカーの取引先に現地の企業があったんですが、この企業がパームオイルのために原生林を違法に伐採している企業だったんですね。
それで、原生林の伐採をやめてくださいということで、あるNPOがその日用品メーカーに講義をする意味でオランウータンの着ぐるみを着て、デモンストレーションを行ったのです。その時、その日用品メーカーは1回立ち止まって実際にどうなっているのかを調べて、現地でたしかに原生林が違法に伐採されているということが確認できたので、現地のその企業からはもう買わないようにしますと調達ポリシーを見直すということをしました。つまり、NPOからの指摘を受けて自分たちのポリシーを見直したというわけですね。
その大手の日用品メーカーさんがやったので、周りの企業もそれに倣って調達ポリシーをどんどん見直して、その結果、現地でもルールのない原生林の伐採が止まったという、すごくいい事例になっています。
大屋: 予め起こり得ることを想定しておいて、もし実際に何かあった時は、ちゃんと対応できるよう準備をしておくことが大事だということですね。
起こり得る反響には、もちろんいいケースも悪いケースもあると思います。悪い場合は、炎上ということもあり得ると思うんですけど、そういった可能性も想定しておくことが大事なのだと思います。このイギリスの事例のように、そういうことがあった場合も、真摯に対応したことで結果としてむしろ評価が上がったケースをみると、表現が適切かどうかわかりませんが、禍転じて福をなすというか、事後の対応次第で挽回していくこともできるということだと思います。
籠島: 抗議しているNPOの人も別に意地悪をしているわけではなくて、世界をもっとよくしていこうという思いでやっているわけですし、その日用品メーカーさんにしてもその思いは同じはずなので、同じ方向にベクトルを合わせて福をなすというふうになればいいなあと思いますね。
大屋: 本当にそうですね。
さて、以上がコミュニケーションをしていく上で、まずこれだけは確認していただきたいポイントでした。こちらがここまでのエッセンスをざっくり1枚にまとめたものになります。このまとめシートは、ガイドの中には入っていないんですけど、今日のセミナーにご参加くださった皆さまだけ、後ほどダウンロードいただけるようにしています。
40枚全部を読むのは忙しくて無理という方は、本当にざっくりですけどこれ1枚だけ見ていただくと、だいたいどんなことが書いてあるのかが分かるようになっていますのでご参考になさってください。
籠島: 赤字だけ読んでもいいですね。
大屋: 概ねここまでの内容がコミュニケーションを行う上でのポイントなのですが、せっかくの機会ですので、ガイドの他のページもザザッと紹介だけさせてください。
籠島: このページはステークホルダーの図です。わりと見たことのある図だと思うんですけど、最近だと社員のアクティビズムということで、大きな企業の中で、従業員の人が会社のポリシーに反対する声を上げたりとか、ハッシュタグ・アクティビズムみたいなことでツィッターなどでデモが起きたりとか、いろいろと新しいことも起きていますので、さっきの0から6番くらいまで段階がありましたけど、その時もちょっとこの辺も頭の片隅に置きながら考えていただけるといいかなと思っています。それがリテラシーを常に向上させていくために大事なのかなと思うんですよね。
このセミナーのタイトルは『真の「サステナブルブランド」のためのコミュニケーションとは』なんですけど、これとこれをやっておけばサステナブルブランドになりますよというものはないと思うんです。状況もどんどん変化していきますし、社会のリテラシーもどんどん上がっていきますので、やっぱり自分たちのリテラシーを常に向上させ続けていくこと、自分たちも変わり続けていくということが大事だなと思います。
大屋: 私たちも自戒の念を込めて、やっていきたいと思います。
籠島: 本当にそうですね。
大屋: 昨日のお昼のセッションで、広告電通賞SDGs特別賞を受賞された貝印さんがご登壇されていましたが、こちらのページは過去2回のSDGs特別賞の受賞事例を挙げています。ぜひ、こちらも事例としてご参照いただければと思います。
ここからは、これまでお話してきたチェックポイントがなぜ大事なのかという背景と、知っておいていただくとよりお役に立つのではないかという情報です。
籠島: サステナビリティというと、範囲が広すぎてどこから手をつけていいのかとなってしまうことも多いと思うんです。繰り返しになりますが、環境の視点と人権の視点というところを押さえていくのがいいのかなと思います。それぞれに文脈といいますか、近年こういう流れがあったからこうなんだよということが見えてくるとすごくつかみやすくなるのかなと思いまして、僭越ではありますけど、こんなページを作っています。
大屋: 環境問題と人権問題に関するページですね。
さらに先ほど、SDGsの17のゴールだけではなく、169のターゲットも確認していただくといいですよというお話をしましたが、パート2にはSDGsの前文も掲載しているんですよね。
籠島: はい。さっきSDGsのゴールとして、うちの企業はここを目指しているということで表示するパターンが多いというご説明をしました。それ自体は悪いことではないんですけど、SDGsはそもそも今の世界がこのままだと未来がないというか、今変えないと立ちいかなくなりますよという思いで作られたものなので、今まで自分たちはこれでやってきた、だから、これでいいでしょうというところで止まらずに、ここをこう変えていきますよ、うちの企業はこんなふうに変えますよというコミュニケーションをしていくべきかなと思っています。
今回のSBの会議にもそういうふうに踏み出していらっしゃる企業様がたくさん出てきていらっしゃいますけど、そういった一歩先、変革の方向にどんどん進んでいってほしいなということで、それはこの前文に我々の世界を変革するというふうに、いきなりでっかく書いているので、そこを忘れずにみなさまと一緒に頑張っていければなというふうに思っています。もちろん、弊社もです。
大屋: そうですね。頑張りましょう!
籠島: 最後に、サステナビリティのコミュニケーションって、炎上とか、何となく怖そうなイメージを持たれているかもしれませんが、その取り組みをより加速させ、ファンや理解者を増やすためにも、とても重要なものです。ですので、今日ご紹介したポイントをしっかり押さえていただいて、ぜひ積極的にコミュニケーションしていただければいいなあと思います。ぜひ、「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」(※注1)をダウンロードいただき、ご活用ください。
(※注1)サステナビリティ・コミュニケーションガイド
https://www.dentsu.co.jp/csr/team_sdgs/pdf/sustainability_communication_guide.pdf
2023年1月1日の組織改変に伴い、現在の所属部署は以下となります。
株式会社電通 大屋 洋子(第4統合ソリューション局レピュテーションクリエーティブ1部 チーフディレクター/電通 Team SDGs コンサルタント)
株式会社電通入社後、マーケティング・プランニング部門において、食品・飲料・製薬会社を中心とした数多くの企業のコミュニケーション戦略立案、商品開発等を担当。2004年より消費者研究センター/電通総研にて、ウェルネス(健康・美容)・食育プロジェクトのリーダーとして従事。2010年より「食生活ラボ」を発足、主宰。 「食」というフィルターを通した生活者インサイトの発掘、ビジネス開発等を行うとともに、テレビや新聞をはじめとする各種メディアの取材、寄稿、講演依頼に対応。その他、飲料・食品関連企業の商品開発や各種セミナーの講師も務める。2016年より、農林水産省食料産業局企画課に企画官として二年間の任期で出向。「栄養改善事業の国際展開タスクフォース」事務局長として、途上国・新興国の栄養改善支援に携わる。2018年4月、帰任し現職。「電通 Team SDGs」SDGsコンサルタントとして、多数企業向けセミナーの講師などを務めるほか、「サステナブル・ブランド国際会議2021」にも登壇。
株式会社電通 籠島 康治(CXクリエーティブセンター クリエーティブ・ディレクター/ コピーライター/電通 Team SDGs コンサルタント)
株式会社電通入社後、各種業界企業の商品、サービスの広告制作をコピーライター、クリエーティブディレクターとして担当。一方で、社会課題に関するコミュニケーションに興味を持ち、社外でも活動。2009年にソーシャルデザイン領域のコミュニケーションに特化したチーム、電通「ソーシャル・デザイン・エンジン」が発足した際に、初期メンバーとして参加。生物多様性、途上国の給食支援、国産材活用、震災復興、農林水産業、防災などのテーマでコミュニケーションに携わる。現在、電通のラボ「うむうむ」を主宰し妊活、包括的性教育などをテーマに活動しながら「電通Team SDGs」SDGsコンサルタントとして企業向けセミナー、社内向けセミナーでの講師も務める。
電通のラボ「うむうむ」:スマホで読める性の教科書SEXOLOGY https://sexology.life
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2022横浜(SB 2022 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
【あわせて読みたい】ethicaバックナンバー
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp