【ethica編集長対談】電通 CXクリエーティブセンター 籠島康治さん 〜表現コンサルという仕事〜
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【ethica編集長対談】電通 CXクリエーティブセンター 籠島康治さん 〜表現コンサルという仕事〜

籠島康治(かごしま こうじ)株式会社電通 CXクリエーティブセンター コピーライター / クリエーティブ・ディレクター Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜(SB 2022YOKOHAMA)」。ethicaはメディアパートナーとして参加しており、昨年も数多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられました。今回は、講演にも登壇した籠島康治氏(株式会社電通 CXクリエーティブセンター コピーライター / クリエーティブ・ディレクター)に、「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」にならないコミュニケーションについて、「ethica」編集長・大谷賢太郎がお話をお聞きしました。

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籠島康治(かごしま こうじ)株式会社電通 CXクリエーティブセンター コピーライター / クリエーティブ・ディレクター Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: 先ほどのセッションはとても勉強になりました。

籠島: ありがとうございます。

大谷: 特にアメリカやフランス、オランダなど各国の事例がたくさん出てきて、理解がしやすかったです。

今回のセッションはコミュニケーションを考える上で、グリーンウォッシュの対策がいかに大事かということに気づかされる内容だったと思います。我々メディアも広告業界も表現や発信の仕方を改めて勉強していかなくてはいけないですね。

籠島さんはいつ頃からグリーンウォッシュに関心を持っていらっしゃったのですか?

籠島: 2009年に電通からグリーンウォッシュにならないためのガイドというのを出していて、その執筆を担当させていただきました。その流れもあって、そのグリーンウォッシュガイドの中にも架空の広告例を作っていました。

大谷: 籠島さんはもともとどんな業務に携わっていらっしゃったのですか?

籠島: 広告制作の部署にいて、コピーを書いたり、CMの企画をやったりしていました。

大谷: クリエーティブの世界にかなり長く携わっていらっしゃるのですね。

籠島: もともとはコピーライターをやっていたんですけど、2005年くらいに広告のクリエーティブを作るスキルを使って、社会で何かできないかということで社外活動を始めました。一般社団法人という形で先輩のアートディレクターと組んで、宮崎あおいさんや滝川クリステルさんの本を作ったりしていましたね。そんなことをしていたら、社内でそういうソーシャルデザインに関わるようなクリエーティブの人たちを集めた部署ができて、そちらに配属になったという流れですね。

表現コンサルという仕事

大谷: なるほど。そして今は電通Team SDGsで活躍されていらっしゃるわけですけど、最近でいうとどんなお仕事をされているのでしょうか? 開示できることとできないことがあると思いますが、お話しできる範囲でお聞かせいただけますか?

籠島: 私はTeam SDGsの中では、表現コンサルという仕事をしています。いろいろな企業さんの案件を担当させていただいていて、この表現でウォッシュにならないかどうかという問い合わせが日々たくさん来ますので、その確認をする部署です。今回のガイドはその部署にいる人間たちで作りました。

大谷: 今日のセッションでいくつか事例が紹介されていましたけど、まさにああいうものをチェックされているわけですね?

籠島: はい、そうです。例えば、ウェブサイトに載せる時、SDGsのゴールのマークをつけたいんですけど大丈夫でしょうかとか、このキャンペーンにSDGsのロゴを使っていいでしょうかとかですね。

大谷: 今日SDGsのロゴについて発表されていましたけど、フォントがちょっとだけ変わっているとか、そういうところは盲点になりそうですよね。

籠島: 引っかけ問題みたいですよね。地味に変わっているんですけど、国連もそんなに大きな声でアナウンスはしないのでチェックが大変です。

大谷: 表現コンサルを担当されているということですが、常識が変わってきて表現してはいけない言葉がどんどん増えていると思います。表現コンサルの皆さんは、普段どんな方法でアップデートしているのですか?

籠島: NGワードのアップデートは、うちの中でもどうやっていこうかとよく話題になります。今は勉強会をやったり、有識者の方に定期的にお話を伺ったりとか、あとはネット上のニュースをピックアップしてくれるサービスがありますので、キーワードを検索してそれを参考にしたりしていますね。

籠島康治(かごしま こうじ)株式会社電通 CXクリエーティブセンター コピーライター / クリエーティブ・ディレクター Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: ちょっと前まではOKだったイクメンが、今ではNGになったみたいですね。そうしたNGワードの認定はどうやっているんですか?

籠島: NGワードの認定というのは特にしていなくて、イクメンがNGワードだというのは、僕にはあまりピンときていなかったというか、分かりませんでしたが、最近使わなくなってきている雰囲気というのは感じていましたね。

表現コンサルとしてよくお答えするのは、これはNGワードだからという返し方はまずしなくて、そういういい方をすると、こういう人が嫌な思いをして何かいってくるかもしれません、みたいな、そういう返し方をよくします。

イクメンというのがダメなのも、育児は女性がするものというのが前提にある言葉だから、ちょっと変だよね、モヤモヤするねということでみんな使わなくなっていると思うんです。なので、単純な言葉狩りにならないようにしたほうがいいかなとは思っています。

大谷: 背景ありきの言葉ということですね。

籠島: 誰からどういう反応があるかということをできる限り想像、推測してやっている、そんな感じですね。

大谷: お話をお聞きしていると、言葉って本当に生き物というか、生ものですね。

籠島: 生ものですね、本当に。

大谷: すごく労力がかかりそうです。

籠島: その通りで、アップデートもちゃんとしなくちゃいけないんでしょうけど、毎日送られてくる質問の数も膨大で追いつくのも大変というところはあります。1人で全部できるとは思わないで、何人かでやろうとか工夫していかないといけないでしょうね。

大谷: 最近の仕事のやり方についてお聞きしたいことがあります。例えば会議1つをとってもクライアントとの会議でも受託している制作会社との会議でもいいんですけど、そのメンバーが多様性のあるメンバーかどうかというのは大事ですよね?

籠島: とても大事ですね。

大谷: 最終的に電通さんに発注できれば、そこの部分まで面倒を見てチェックしていただけるでしょうから安心ですが、全部が全部、電通さんにお願いできる仕事ではないので、そういった時に自社で会議の多様性を保つことが大事だと思うんですよ。

籠島: それってほぼ社風にかかることじゃないですかね。会議だけではなく、仕事のやり方そのものにも多様性は大事だと思いますから。

職場におけるダイバーシティ

大谷: どうしても男性が多い会社とか、年齢が偏っている会社、若い人を採りたいんだけど、そんなにたくさん新入社員を入れられない会社だと多様性を保つのはなかなか難しいですね。

おじさんという表現は男性に対する差別的な言葉なので、ethica的には考えなくちゃいけない言葉かもしれませんが、あえておじさんといっちゃいます。おじさんがマイノリティである若者に社内で話しやすい環境を作ってあげることは結構大事だと思います。

籠島: その意味でいうと、おじさんの力量が問われているといってもいいかもしれないですね。

最近の弊社は、雰囲気も社風も変わってきました。以前は仕事のやり方に関しても、電通の常識は社会の非常識なんていわれていたことがありましたけど、最近はみんなすごく気をつけるようになっています。2022年、電通ジャパンネットワークではCDO、Chief Diversity Officerという、DE&Iを統括する役員を新たに任命しました(※注)。外部の有識者の方にも意見を伺って、時代にあった正解を見つけようとするようになっていますね。

(※注)2023年1月から dentsu JapanのCSO、Chief Sustainability Officerとしてサステナビリティ全般を統括することに

アメリカの事例

大谷: 今回お話しされたいくつかの事例について、具体的にお聞きしたいと思っています。環境を意識しているようなキャンペーンを行っていたアメリカの飲料メーカーが、実はペットボトルを一番使っていて、消費者団体から本当にサステナビリティなの、みたいな運動というか圧力がかかったという事例がありましたが、今後、日本でもこうした動きがでてくるかもしれませんね。

籠島: 例えばグリーンピースのような団体はグローバルでやっていますね。他にもいくつかそういう大きな環境保護団体が同じような活動をやっていて、日本ではまだ過激な行動にはなっていないんですけど、聞いているところによると、グローバルでそうしたアンチ何とかみたいなキャンペーンをやる時、日本支部にも声がかかるそうですよ、日本でもやれよって。日本でもそうした流れが来るかもねという話は聞いています。

大谷: 売り上げがたくさんあって従業員も多い上場企業にとって、広告を出したりキャンペーンをやる際には、相当のレピュテーションリスクを抱えながらの表現になりますね。

籠島: 今日は具体的な実例はお出ししませんでしたけど、例えば去年だと、住友商事さんに対して株主総会の前にあるNPOが、このポリシーはパリ協定との整合性がないから変更すべきではないかという意見広告を出したりして、株主総会の結果、賛成が2割だったので結局、NPOの意見は採り入れられなかったということがありました。

ただ、株主総会の前に住友商事さん自体が自主的にちょっと調整して、もう少し整合性のある形に変えるということをしたので、意見広告は成果が多少なりともあったかもしれませんね。なので、日本企業も決して無縁ではないですね。

イギリスの事例

大谷: 実はethicaはサラヤさんにスポンサードしていただいているんですが、イギリスのパームオイルの事例は、サラヤさんとすごくかぶるところがあります。オランウータンの着ぐるみで抗議活動をしたということでしたけど、イギリスのどこでやったのですか?

籠島: ロンドンの町中だったみたいですね。オランウータンの着ぐるみを着たNPOのメンバーが建物によじ登って横断幕を張ったそうですよ。

大谷: この行動に対する電通さんの見解としては、真摯に対応するのが正解ですよということで、そうすることによってピンチがチャンスになってビジネスの成功につながることもあり得るというお話でした。まさにサラヤさんがそうで、ボルネオの原生林を伐採しているというバッシングを受けたことで、それ以後、現地で原生林とオランウータンの保護活動をコツコツと地道にやっていたら支持が集まってきたんですよ。

籠島: たしかにおっしゃる通りですね。禍が転じて福となった、とても分かりやすい事例ですね。

オランダの事例

大谷: オランダの化石燃料の事例はアムステルダム市の地下鉄でしたね?

籠島: ええ、そうです。市民目線から見たときに化石燃料に対して真摯に向き合っていないように見える企業の広告を地下鉄から締め出したんです。

大谷: それってオランダの広告代理店は、世界がよくならないと広告を入れてもらえないから困っちゃいますよね。日本もこうなったら電通さんも大変だ。

籠島: タバコと同じかもしれませんね。昔は普通に広告を出していましたけど、健康にとってよくないものは広告してはいけないということで今はだいぶ制限されていますから。最近はアルコールもだんだんそういう動きになってきていますね。

大谷: 今の世の中の流れって結局、SDGsというきっかけがあって世界がよくならないとダメだよね、そのために現状を変えていきましょうって話ですよね?広告代理店さんも世界を変革しないと商売ができなくなっちゃいますものね。

籠島: そうなんですよ。ですから、私たちも今回のガイドを作る時に自分たちから変革しなくちゃダメなんだと思って、クライアントさんから、ん?って思われるようなことでも積極的に発信していこうよという話を内部でして、それで作りました。

フランスの事例

大谷: 最後にフランスの事例です。フランスって自由主義ではあるんですけど、結構、社会主義的な感じがしますよね?

籠島: そうですね。すごい左な感じがします。そういうフランスがグリーンウォッシュに関する法律を作ったんです。それもガイドに出ているんですけど、EUの中でもフランスがいきなりそんなものを作っちゃったというのは意外でした。

大谷: 問題になった事例はクルマが自然の岩の上に載っているという広告のクリエーティブに対してと聞いていますが?

籠島: 詳しくいうと、あれは化石燃料を使っている製品の広告でもありますよね。ですから、規制がかかったんですけど、クルマの広告の場合はクルマが本当に走れるところに置いていないと、それって架空の話ですよね、イメージをよくするために嘘をついていますよね、ということになってしまうんです。

大谷: そこにグリーンウォッシュが関わってくるわけですね?

籠島: そういうことです。

電通 Team SDGsが発行した「サステナビリティ・コミュニケーションガイド

サステナビリティ・コミュニケーションガイド

https://www.dentsu.co.jp/csr/team_sdgs/pdf/sustainability_communication_guide.pdf

大谷:  最後に「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」の感想を述べさせてください。

籠島: それはぜひお聞きしたいですね。

大谷: 充実感がすごくて、このまま学校の教科書として使えるなと思いました。これがダウンロードできて、タダで見られるなんてすごいことですよ。これだけでも社会貢献なんじゃないかと思いながら見ていました。

籠島: お誉めいただき過ぎな気もしますが、、ありがとうございます。

大谷: 今日は長時間、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

籠島: こちらこそありがとうございました。

 

株式会社電通 籠島 康治(CXクリエーティブセンター クリエーティブ・ディレクター/ コピーライター/電通 Team SDGs コンサルタント)

株式会社電通入社後、各種業界企業の商品、サービスの広告制作をコピーライター、クリエーティブディレクターとして担当。一方で、社会課題に関するコミュニケーションに興味を持ち、社外でも活動。2009年にソーシャルデザイン領域のコミュニケーションに特化したチーム、電通「ソーシャル・デザイン・エンジン」が発足した際に、初期メンバーとして参加。生物多様性、途上国の給食支援、国産材活用、震災復興、農林水産業、防災などのテーマでコミュニケーションに携わる。現在、電通のラボ「うむうむ」を主宰し妊活、包括的性教育などをテーマに活動しながら「電通Team SDGs」SDGsコンサルタントとして企業向けセミナー、社内向けセミナーでの講師も務める。

電通のラボ「うむうむ」:スマホで読める性の教科書SEXOLOGY https://sexology.life

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年7月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」を創刊。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業11期目に入り、自社メディア事業で養った「情報力」と「アセット」を強みに「コンテンツ」「デジタル」「PR」を駆使した「BRAND STUDIO」事業を展開するほか、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を展開。

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