(最終話)「わかりあえなさ」から始まる、家族とウェルビーイング【連載】かぞくの栞(しおり)
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(最終話)「わかりあえなさ」から始まる、家族とウェルビーイング【連載】かぞくの栞(しおり)

約2年間に渡って連載した「かぞくの栞」は、今回で最終話となりました。

 

一番身近な存在であり、多くの時間を共に過ごす「家族」。

よりよい関係でありたいと願いながらも、ぶつかったり、落ち込んだり、悩んだり。そんな日々のなかでも、お互いの心地良さが重なり合うところで、ごきげんに過ごせたひとときや相手のことを思い合う瞬間、大切にしたいと感じた瞬間。

「かぞくの栞」は、そんな一瞬一瞬を書き記した、道標のようなものでした。

 

「家族ってなんだろう」「ウェルビーイングってなんだろう?」と問い続けた旅も、ひと区切り。

最終話の今回は、紆余曲折を経るなかで見えてきた「わたしたち(家族)にとってのウェルビーイング」を育むために大切にしたいと感じたことについて、綴っていけたらと思います。

「わたしたちにとってのウェルビーイング」の実現

まずは、「ウェルビーイング」について、ちょっぴり振り返りたいと思います。

 

「ウェルビーイング」とは、心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態であることを意味するもの。

変化がめまぐるしく、多様な価値観にあふれる現代において、GDPのような経済的指標だけでは測れない、一人ひとりの幸せや満足感を測る指標(概念)として注目されています。

 

人生100年時代と言われる今、一人ひとりのウェルビーイングが高まっていくこと、つまり人生を通してその人自身が感じる、主観的な幸せや満足感がより重視されるようになっています。

 

私たちは一人ひとり違う人間ですから、「自分にとってのウェルビーイング」と「ほかの誰かのウェルビーイング」は当然異なるもの。

 

一人ひとり違う「心地よさ」を、お互い尊重しながら生きていければ理想的ですが、ときにはその「ちがい」によってぶつかったり否定したり、誰かのウェルビーイングを実現するために、他の誰かのウェルビーイングが損なわれてしまう……ということもあり得るのです。

 

どうすれば、一人ひとりのウェルビーイングを損なわずに「わたしたちにとってのウェルビーイング」を実現していけるんだろう?

私にとって、そのことを考える出発点となったのが「家族」でした。

わが家は、1つ年上の夫と、もうすぐ5歳になる娘との3人家族です。

今でこそお互いの心地よさの重なり合うところで、ごきげんに過ごせることが増えてきているように感じていますが、産後、はじめての子育てをしながら、仕事や家事と向き合う毎日は思っていた以上に大変で、お互い余裕のなさから、些細なことでぶつかることが少なくありませんでした。

 

一緒にいるはずなのに、時折感じる孤独感。

楽しいこと、幸せな時間は共有できても、しんどいことは全部一人で抱え込んでいるようでなんだか苦しい。

そんな気持ちを夫に伝えるまでには、随分と時間がかかりました。

 

話し合いを重ねていくうちに分かったのは、思っていた以上に、伝えたかった気持ちは相手には伝わってなかったこと、私自身も相手の気持ちを本当の意味で分かろうとしていなかったということでした。

 

「家族だから、夫婦だから分かり合えるはず」「それくらい、察してほしい」。

相手に期待し、期待通りにならなかったときに、落ち込んだり不満が溜まって爆発したりしていた私。

自分にとって心地よくない相手の「ちがい」に触れたとき、否定したり批判したり、受け入れ難い気持ちになっていた私。長い間、そんな自分でいたことに気づきました。

 

私、夫、娘。家族といえども、一人ひとり違う存在。

頭では分かっていても、一緒に過ごす時間が長いほど、ついつい自分のモノサシで相手を測って、分かったようなつもりになってしまいがちです。

 

「分かりあえなさ」を前提に向き合ったとき、「どうして相手は(私は)こう思うんだろう?」「どうすればそれぞれの心地よさを損なうことなく、お互い不満に思っているこの課題を解決できるんだろう?」と自分自身も相手も責めない形で、対話を重ねていけたように感じます。

私とあなたは違う存在。それでも分かり合いたいとお互い歩み寄って、一緒によりよい未来を描こうとすることはできる。

 

そう思えたのは私にとって大きな変化でしたが、仕事に家事に子育てに……気がつけばたくさんのことに追われる日々のなかで、自分自身や家族に向き合い続けるのはとっても大変です。

だからこそ、家族とウェルビーイングを育むために大切だと感じたのは「余白をつくる」ことでした。

 

振り返れば、家族との関係がギスギスするのは、たいていお互い余裕がないとき。時間の余裕がないと気持ちの余裕がなくなり、自分の状態に意識を向けたり、相手を思いやることも難しくなります。

 

私たちの場合は、家事や働き方、娘の生活リズムを見直したり、それぞれの一人時間を確保するために協力体制を築いたりしながら、ちょっとずつ家族としての「余白」をつくっていきました。

 

余白があるかどうかの一つの基準は、日々のなかで「あれ?」と感じる、小さな違和感を取りこぼさずにメンテナンスできているかどうかだと思います。

体調はもちろん、働き方、暮らし、お金、人間関係など、気がついたら、そのサイズ感が心地よくないことに気づかないまま、長期間経っていた……なんてこともあるのではないでしょうか。

 

ウェルビーイングは、自分自身のなかでも、関係性のなかでも変わり続けていくものだからこそ、日々の違和感をちゃんとキャッチし、調整したり手放したり、その積み重ねが、より心地よい方向へ舵取りしていくことにつながるのではないかと感じています。

なんだかいい感じだったな!という日もあれば、対話とは程ほど遠いカタチでぶつかって、全然思うようにいかなくてモヤモヤしながら布団に入る……なんて日もある、まだまだ未熟な私たちですが、少しずつ、自分たちにとって心地よい方へ歩みを進めていけているように感じるこの頃です。

 

自然の中に出かけてのんびりピクニックしたり、焚き火を囲んでキャンプをしたり。

家族と、気のおけない友人たちと食卓を囲んで、他愛のないお喋りをするひととき。

畑仕事やお散歩で季節の移ろいを感じ、四季のめぐりと共に娘の育ちを感じる瞬間。

身近なところで作られたものが食卓に並ぶとき、作り手さんの思いがこもったものを手にするとき。

 

暮らしのなかで感じる小さな幸せに目を向けると、他者や自然、社会とのつながりがあって、私という存在、家族という小さな関係性が成り立っていること、豊かな関わり合いのなかに「ウェルビーイング」があることを感じます。

 

たとえそれぞれの「良い」が重ならなかったとしても、今が肯定的に捉えられるような状況じゃなかったとしても、どちらが悪いとか間違っているとかいうことはなく、お互いの気持ちを認めることから、対話がはじまっていく。

 

そんなふうにして、「私」や「家族」を出発点に、少し遠いように感じられる存在とも「私たち」として関係性を紡いでいけたら、本当に小さなことだけど、もしかしたら一人ひとりがより心地よく健やかに生きる未来に、より良い社会の実現に近づいていくのかもしれない……なんて願っています。

 

笑い合う日もぶつかる日も、愛おしい。

そんな家族との日々を、これからも大切にしていきたいと思います。

最後になりましたが、ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。この連載が、皆さまお一人おひとりと、大切な誰かにとっての「ウェルビーイング」を考えるひとつの道標になればいいな、と願っています。

 

「かぞくの栞」は今回で終了ですが、「季節のプラントベースごはん」の連載は続きます。

ウェルビーイングを支えてくれる日々の食。毎日のことだからこそ、難しく考えすぎず、楽しく作れることを一番に、シンプルで美味しいレシピをご紹介できたらと思っています。

 

ぜひ、こちらもご覧いただけたら嬉しいです!

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】かぞくの栞(しおり)

季子(キコ)

一児の母親。高校生のころ「食べたもので体はできている」という言葉と出会い食生活を見直したことで、長い付き合いだったアトピーが大きく改善。その体験をきっかけに食を取り巻く問題へと関心が広がり、大学では環境社会学を専攻する。

産後一年間の育休を経て職場復帰。あわただしい日々のなかでも気軽に取り入れられる、私にとっても家族にとっても、地球にとっても無理のない「いい塩梅」な生き方を模索中。

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