グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント「サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内(SB 2023TOKYO-Marunouchi」。ethicaは例年メディアパートナーを務めており、今年も数多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられました。この記事では、サステナブル・ブランド国際会議、KDDI株式会社、花王株式会社が参加した「Xの時代に求められる人財価値を最大化させるサステナビリティ経営とは」と題されたセッションから、ファシリテーターを務めた田中信康氏(サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサー)と最勝寺奈苗氏(KDDI)のディスカッションをレポートします。(記者:エシカちゃん)
経営戦略にサステナビリティをどう位置付けるか
田中: パーパスからヒューマンキャピタルにつなげていく重要性について、実感している人も多いと思います。このセッションでは「Xの時代に求められる人財価値を最大化するサステナビリティ経営とは」について、理解を深めていきたいと思います。
サステナブル・ブランド国際会議では「サステナビリティを経営の中心に置く」ことがよく議論されています。既存のビジネスモデルは衰退していて、限界に達しています。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への積極的な対応が大命題になっています。多くの日本企業が未来への不安を抱えるなかで、今回は「サクセッションマネジメント」に注目したいと思います。
まず、未来に通じる強い企業とはどのようなものでしょうか。こうした企業になるためには、先見の明や自社らしさとともに、事業の根幹にサステナビリティをしっかりと据えることが大切です。事業の課題解決とサステナビリティの課題解決を一挙両立することが、求められています。
サステナビリティを経営の中核に据えるというのは、サステナビリティをトランスフォームするなかで社会の理想像を重ね合わせ、そこに自社の経営戦略をどう位置付けるかということです。昨年の会議で人的資本の開示についてお話しましたが、その時点では認知度が高くないようでした。しかし1年経った今、多くの人が認知するようになり、最大のテーマになりつつあります。情報を開示しながら、人財をどのように生かしていくのか。社員と社会との融合という点も問われています。
そこで今回は、サステナビリティ経営を中長期経営戦略の中核に置いている企業として、KDDIの最勝寺さんに自社での取り組みをお話いただきたいと思います。
人財ファースト企業への変革
最勝寺: 私はコーポレート統括本部に所属し、サステナビリティ経営推進に力を注いでいます。本日は、KDDIのサステナビリティ経営実現に向けた取り組みのひとつである人財戦略について説明します。
「KDDI VISION 2030:つなぐチカラを進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」を掲げ、中期経営戦略の軸にサステナビリティ経営を据え、事業戦略と経営基盤強化を両輪で推進しています。サステナビリティ経営の基本方針として「サテライトグロース戦略の推進と、それを支える経営基盤の強化により、パートナーの皆さまとともに社会の持続的成長と企業価値の向上を目指す」ことを掲げています。
私たちが考えるサステナビリティ経営とは、「経営戦略」と「社会価値」の観点を組み入れて「持続的成長」を実現することです。「経済価値」「社会価値」「環境価値」の3つの価値を向上させて、企業価値の向上が社会の持続的成長につながり、それが私たちの事業戦略のもとにかえってきて、社会に還元される。そんな好循環を目指しています。
事業戦略であるサテライトグロース戦略というのは、5G通信を中心に置いて、通信事業の進化と通信を核にした注力領域を拡大させるというものです。特に、金融やDXなどの5つの注力領域を掲げて取り組んでいます。この戦略を推進するためには、強固な経営基盤が必要です。そのために、「カーボンニュートラルの実現」「ガバナンス強化によるグループ経営基盤強化」「人財ファースト企業への変革」という3つの主要テーマをマテリアリティ(重要課題)にも掲げ、取り組んでいます。
中期経営戦略の策定にあたり、当社のマテリアリティ(重要課題)を6つにまとめています。この課題は、加速する社会変革に対応しながらも、企業の価値向上や社会の持続的成長に貢献するために必要なものです。
人財ファースト企業への変革として、「新人事制度」「社内DX」「働き方改革」の三位一体改革を進めています。特に、社内DXについては全社員のDXスキルの向上とプロ人財の育成を目指しています。事業を支えるDXプロ人財の育成のために、2020年に社内の人財育成の機関として“KDDI DX University”を設立しました。そのDX Universityを2022年度より専門領域のプロ人財育成機関へと進化させ、2024年度までに全専門領域において、プロ人財の比率を30%にすることと、全社員約11,000人がDX基礎スキルを習得することを目指しています。
企業理念・フィロソフィ(哲学)とサステナビリティ
田中: サステナビリティ経営として、人財ファースト企業へと変革していくというお話でした。その狙いや背景について、詳しく教えていただけますか。
最勝寺: 経営戦略の頂点に企業理念があり、発足以来、「全従業員の物心両面の幸福の追求」を掲げています。底辺にはフィロソフィ(哲学)があり、KDDIの社員が持つべき行動の規範が記されています。変化の激しい時代を乗り越えていくためには、社員と組織の高度な自律と成長が不可欠です。当社は人財を最も大切なリソースと捉え、その育成・強化に向けてDXの専門人財やジョブ型の人事制度を導入し、人財ファースト企業へと移行しています。
田中: KDDIでは、本業としてDXを推進されています。プロ人財の育成をさらに推進することで、さらなる企業価値の向上につながるということでしょうか。
最勝寺: DX関連事業はたくさんの引き合いがあり、人材が不足しています。人財育成により社内のリソースを強化して、DX領域に要員シフトしていきたいと考えています。
田中: 社員とエンゲージメントを深めていくのが大切だと感じました。期待されていることやこれからの動きについて教えていただけますか。
最勝寺: 制度を作るだけでなく、社内におけるさまざまなアプローチが大切です。社員一人ひとりとのエンゲージメントを高めるためには、職場での1on1(1対1)でのミーティングが有効になります。グループリーダークラスの上司と月1回以上のミーティングを行うように定めています。また、業務上の悩みについては、社内カウンセラーが一人ひとりに対応する仕組みになっています。こうした取り組みが、社員とのエンゲージメントを高める上で役に立っているのではと感じています。
田中: さまざまなことを「見える化」して、経営パフォーマンスや企業価値の向上につなげているということでしょうか。
最勝寺: ほかにも、人事の面でさまざまなツールを活用しています。データにより、いろいろな動きを可視化しています。それぞれの分析を、今後はそれぞれ有機的に結合させてさらに深い分析をしていきたいと思っています。
田中: まさに専門の領域ですね。新たな社会変革につながることを期待したいと思っています。社員とのエンゲージメントを高めるために、議論を重ねて「見える化」されています。
最勝寺: 私たちはKPI(重要業績評価指数)のなかにESGの項目を含めていて、役員と従業員の賞与に反映される仕組みになっています。そのほか、各本部組織のプロファイルには「サステナビリティにどう取り組むのか」という記載もあります。フィロソフィとサステナビリティについては、それぞれがどう紐づいていて、業務を通じてどう実践していくのかを社員と対話しています。
田中: 社員の自立心を刺激してマインドを高めていくような企業風土を作っていくことがポイントになっていると感じました。今後の活動にも期待しています。本日はありがとうございました。
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2023東京(SB 2023 TOKYO)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
注目すべきセミナー、ディスカッション、ワークショップの様子を引き続きethicaで連載していきますので、お楽しみに!
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※本記事は2023年2月15日時点の内容となります。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp