グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント「サステナブル・ブランド国際会議2023東京(SB 2023 TOKYO)」。ethicaはメディアパートナーとして参加していて、数多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられました。本連載の最終回は、パネルディスカッションにファシリテーターとして登壇した岡山慶子氏(株式会社朝日エル会長)とethica編集長・大谷賢太郎の対談企画となります。
社会貢献をする会社として「朝日エル」を設立
大谷: 朝日エルさんは、創業してから37年になります。まず、業務内容や創業エピソードについて教えていただけますか。
岡山: 朝日エルを創業したのは1986年です。創業する前の年に「男女雇用機会均等法」が制定されたばかりでした。その頃、私の部下の女性たちが結婚・妊娠・出産するタイミングと重なっていました。こうした状況もあって「女性が働きやすい環境にするためには『モノサシ』を変えないといけない」と考えていました。
ちょうどその頃、ハーバードビジネススクールで学んだ友人から「日本には本業を通して社会貢献をする会社がない。あなたがつくればよい。」と聞いていました。これが「本業を通して社会貢献をするような会社をつくりたい」と思った最初のきっかけです。
大谷: 「社会貢献」というキーワードは、会社を設立する前から意識していたということですね。
岡山: そうですね。私の専門領域は「社会心理」です。もともと調査が好きだったので、人の気持ちを深く調べてシステムをつくったり、サービスを始めたいと思っていました。社会貢献をする会社として朝日エルを設立した後、大手企業も同じような女性チームを立ち上げましたが、その多くは長続きしませんでした。私たちの場合、消費者やクライアント、関わるすべての人の気持ちをよく考えて地道に取り組んできたからこそ、ここまで続けられたのではと思っています。
大谷: 会社を継続するには本質を考えることが重要、ということですね。
岡山: はい。会社を経営する上で大切にしていることが3つあります。まず「利益を出す」ということ。次に「社会に貢献する」ということ。最後は「働いている人が幸せになる」ということです。
江戸時代に学ぶSDGsとウェルビーイング
大谷: 岡山さんが登壇されたパネルディスカッションは、とても素晴らしい内容でした。2000年頃からSDGsやウェルビーイングをテーマに活動されていることや、さまざまな文献の調査を踏まえたお話に非常に納得しました。
また、サステナビリティを熱力学の話から始めるという流れも興味深かったです。パネリストとして登壇し、熱力学のお話をされた日本創造学会評議員(元理事長・会長)の奥正廣先生は、どんなつながりなのでしょうか。
岡山: 東京工業大学の一般教養のなかに心理学講座というものがあって、私は共同研究者として参加していました。同じ時期に学生として参加していたのが奥さんでした。たくさんの学生が集まっていましたが、社会人は私だけ。社会人という立場が影響したのか、学生たちは私の話を真剣に聞いてくれました。当時から学生たちには「自然科学や人間科学、社会科学のエビデンスのある研究でなければ発表したくない」と伝えていました。卒業した後も、1年に1回くらいは仲間同士で集まっていましたね。
大谷: そうでしたか。奥先生とは長いお付き合いなのですね。奥先生のエネルギーのお話はとても勉強になりました。
岡山: 石油の生産のピークはすでに過ぎていて、将来的には石油は私たちのエネルギーではなくなるかもしれないといわれています。しかし、こうした事実に触れないようにしている人が多く、それこそが課題だと思っています。
大谷: たしかに、石油の価格が高騰しています。さまざまな物資を輸入に頼っている日本では、食糧に困るようになるのはほぼ確実です。「石油に頼っていなかった」という意味でも、江戸時代に注目すべきポイントがあるように感じています。
岡山: 江戸時代には、みんなが助け合って生きていたことにも着目すべきでしょう。現在は、貧しくなると立ち上がれない社会になっているように思います。江戸時代はそれぞれが助け合って立ち上がっていくような雰囲気や、人と人とのつながりがありました。
大谷: そうですね。海外と競争していくなかで、日本は西洋の影響を大きく受けてきました。その結果のひとつとして、江戸時代にあったようなつながりは薄くなり、個人主義的な考え方が強くなっているように感じています。
数多くの偉人を輩出した松阪市とは
岡山: 私は松阪市出身で、松阪生まれの本居宣長や松浦武四郎について幼い頃から学んできました。さまざまな書籍を読むうちに、江戸時代への関心が深まるとともに、松阪市の魅力や松阪市の市民のパワーをより強く感じるようになりました。
大谷: 今回のパネルディスカッションで松阪市長が登壇されていたのは、地元のつながりによるものでしょうか。
岡山: そのとおりです。本居宣長だけでなく、商人の三井高利や北海道の名付け親である松浦武四郎など、松阪市が輩出した偉人はたくさんいます。ここからも、松阪市は特徴のあるまちだと感じています。
大谷: 松阪市は、三重県のなかではどんな位置づけなのでしょうか。
岡山: 松阪市は地理的には名古屋と京都の中間付近にあり、中央政府との距離の取り方が上手だという特徴があります。江戸時代の松阪市は「紀州藩の飛び地」として位置付けられていたため、武士が暮らしていませんでした。だからこそ、商人文化が発展してきました。
大谷: 松阪市の特性を考えるとき、歴史や地理なども多く関係しているということですね。
岡山: そうですね。松阪市は伊勢神宮にも近く、古くから人の往来が盛んな場所でした。本居宣長をはじめ、偉人たちは人を観察したり、記録に残したりするのが得意だったといわれています。
「幸せ」や「生きがい」とは何か
岡山: 江戸時代に日本を訪れた外国人は「どうしてそんなに幸せそうな顔をしているのか」と疑問に思ったそうです。私は、当時の日本人が幸せそうに見えた理由を調べています。そこから日本流サステナブルウェルビーイングを提案しています。
大谷: 昔の映像では、貧しい状況にあっても笑顔の子どもたちの姿を見かけることがあります。貧しいから不幸だという話ではなさそうですね。
岡山: 先日、大学生に対してサステナビリティに関する授業をしました。サステナビリティについて「あなたにとっての問題で自分が幸せかどうかということ」と伝えると、「そんなことは初めて聞きました」という言葉が返ってきたんです。話をよく聞いてみると、その学生は「サステナビリティとは何かをやらなければならないことだ」と思っていたそうです。
大谷: 「自分が幸せかどうか」というのは、大事な視点ですね。ethicaのコンセプト「私によくて、世界にイイ。」にもつながる話だと感じます。「私によくて」の部分がなければ、「世界にイイ。」も存在しません。きっと同じような考え方ですね。
岡山: そうですね。幸せに関連して「生きがい」について考えてみると、欧米の場合は数値化やパターン化するのが得意です。それに対して沖縄の研究のなかには、生きがいについて「明日やることがあるかどうか」という項目があります。私の知人は、「夜眠る前に、明日の朝起きるのが楽しみであるようにしたい」と言っています。私は、それこそが「生きがい」なのではと思っています。
岡山慶子(朝日エル会長)
1986年に誰もが生き生きと活躍できる社会をつくるために株式会社朝日エルを設立。スタートはパナソニック美容家電、花王ソフィーナの立ち上げにかかわる。 その後、保健・医療・福祉・女性支援などをテーマに社会貢献とビジネスの融合を図る。2000年にアメリカミシガン州でサステイナビリティの概念と実践に出会い、持続可能な社会を担うことを会社の方針とする。
ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年7月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」を創刊。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業12期目に入り、自社メディア事業で養った「情報力」と「アセット」を強みに「コンテンツ」「デジタル」「PR」を駆使した「BRAND STUDIO」事業を展開するほか、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を展開。
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2023東京(SB 2023 TOKYO)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
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※本記事は2023年2月14日時点の内容となります。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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