「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。
本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな体験をするのは旅とお酒が大好きで、2023年には旅のエッセイ集『じゆうがたび』を出版したフリーアナウンサーの宇賀なつみさんです。
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。
本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな体験をするのは旅とお酒が大好きで、2023年には旅のエッセイ集『じゆうがたび』を出版したフリーアナウンサーの宇賀なつみさんです。
【あわせて読みたい】宇賀なつみ サンフランシスコ編
サンフランシスコで最も有名な美術館であり、観光名所として人気のサンフランシスコ近代美術館(通称:SFMOMA)は、国際的に認められた近現代美術のコレクションを所蔵していて、20 世紀美術のみを専門に扱う西海岸初の美術館です。
サンフランシスコ最大の地区の1つであるサウスオブマーケット(SoMa)という、アートや文化施設の多い活気に満ちた中心地にあり、私たちが宿泊しているWホテルからも歩いていけるほど近くに位置しています。アートや文化芸術が好きな人にとってはもちろん、今回の企画の骨子であるサステナブルという観点からも注目すべき場所なのです。
その始まりは1935年、戦争記念館退役軍人館にサンフランシスコ美術館として設立されます。そして60年後の1995年に大規模な改修と拡張を行うため現在の場所に移転。建築家マリオ・ボッタの設計による、レンガを使い幾何学を基本とした特徴的な建物になり、同時にニューヨーク近代美術館(MoMA)と区別するため、「SFMOMA(エス エフ モマ」という愛称の使用を開始しました。
その後、増え続ける新しいコレクション作品や、倉庫に眠っている多くのコレクション作品を常設展の一部として展示する目的のため、スノヘッタ アーキテクツによって3 年間にわたる大規模な拡張プロジェクトを実行し、2016年に再オープンします。それにより、美術館のギャラリースペースは 2 倍以上となり、以前の建物に比べてほぼ 6 倍の公共スペースが提供され、SFMOMA は現代美術のドリス&ドナルド・フィッシャー・コレクションとともに拡張されたコレクションの展示を可能にしたのです。
SFMOMAが拡張工事に取り掛かる際、掲げていたミッションがあります。それは新しい建物がグリーンビルディング認証である「LEED」のゴールド基準を満たさなければならないということでした。グリーンビルディングとは、環境への負荷を軽減し、地球環境に配慮した建築物のことで、エネルギーや水の使用量削減や、空調設備などによる環境性能の高さといった事柄を基準に図られます。英語では「サステナブル・ビルディング」や「グリーン・アーキテクチャー」、日本語では「環境配慮型建物」、「環境に優しい建物」などとも言われており、近年では環境性能だけにとどまらず、人体への健康配慮や個々のウェルビーイングの実現といった観点も同時に追求され始めているのが特徴です。そして、LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)とは、アメリカの非営利団体である米国グリーンビルディング協議会(USGBC)によって設立運営された、グリーンビルディング認証のこと。アメリカだけでなく、日本や他国でも活用されていて、世界基準に近い認証制度となっています。
美術館にとって温度と湿度の管理は最優先事項。これによって、たとえば他の美術館から美術品の貸し出しが受けられるかどうかが決まるのです。その管理を実現するには費用がかかるだけでなく多大なエネルギーが必要ですが、逆にLEED スコアを低下させる可能性も。拡張工事にあたっては、構造とそのシステムの設計のあらゆる側面をその機械、照明、水道、その他のシステム全体で可能な限り効率的にカスタマイズする必要があり、最適化、が合言葉だったそうです。そうしてLEEDグレードにするエンジニアリング戦略を緻密に重ねた結果、現在の形でSFMOMAが完成し、LEEDのゴールド認証の受賞を実現したのです。
中でもサステナブルを感じさせる印象的な作品が、目玉の一つでもあるハビタット・ホーティカルチャー(Habitat Horticulture)制作による「Living Wall」です。美術館の中のバルコニーのような屋外の場所に、壁に沿ってびっしりと敷き詰められた本物の植物たちが縦横一面に広がっています。少し離れた場所から遠目に見るとそのダイナミズムに圧倒され、近づいてみると緑がそれぞれ違ったディテールで色づいて輝いているのを発見し、緑の向こう側からはチョロチョロと静かに水が流れる音が聞こえてきます。
こちらの作品の設計をしたハビタット・ホーティカルチャーは、2010 年に園芸の先駆者でアーティストの デビッド・ブレナーによって設立されました。自然とのつながりを育み深めて建築環境を活気づけること、植物中心の、畏敬の念を抱かせる空間を生み出すことをミッションに掲げており、建築と自然のラインが一体となって生き生きと繁栄し、持続可能な 1 つのシステムとして存在することを目指した作品を数多く生み出しています。
「Living Wall」の制作時には、自然界の延長としての認識から、過度にデザインされないことやカリフォルニアの森林地帯の下層植物群落の本質を捉えることを意識して構想されたそうです。
この作品以外にも、日本でも人気がある、自然現象を再構築したインスタレーションを得意とするオラファー・エリアソンの作品や、黄色いドットが印象的な草間彌生の「南瓜」など、さまざまなアートを間近に鑑賞することができました。
続いてやってきたのは、ミッション地区と呼ばれる場所の16番街にあるダンデライオン・チョコレートのファクトリー&カフェです。ダンデライオン・チョコレートはトッド・マソニスとキャメロン・リングによって2010年に創業したサンフランシスコ発のBean to Barチョコのブランド。IT業界から転身という異例のバックボーンを持つ二人は、友人のガレージを借り実験と試作を重ねながらチョコレートを製造開始します。それが友人たちの評判を呼び2013年にはサンフランシスコにファクトリーを開きました。日本でもカフェの聖地でもある蔵前や、三重県の伊勢神宮外宮参道沿いに店舗を構えます。
ファクトリーでは、カカオ豆の選別から、ロースティング(焙煎)、摩砕、テンパリングを行い、ひとつひとつのチョコレートバーを手作業で型に流し入れて成形し、包装までを行います。巨大な印刷工場をリノベーションして作られているこちらの店舗は、アメリカ建築家協会(AIA)からも内装建築アワードを受賞していて、工場の見学ツアーなどの多彩なワークショップや、チョコレート・サロン「BLOOM」での朝食やアフタヌーンティーが人気とのこと。今回私たちも工場見学ツアーに参加することができました。
ダンデライオン・チョコレートの基本は、原材料にカカオ豆ときび砂糖だけと言うシンプルな製法で造られており、ヴィーガンでも安心して食べられます。ですがそれだけでなく、製造過程にとことん拘りを持ったサステナブルな選択に注目です。チョコレートの製造に欠かせないカカオ豆を「ダイレクト トレード」によって調達します。
ダイレクト トレードとは、カカオ豆の買い付け担当者を筆頭に、使用する産地に必ず訪れ、自らの目で生産地と生産者、生活環境や自分たちがカカオ豆を手にするまでの商流を把握した上で価格を交渉し購入するという取引のこと。産地に赴くことで生産者の顔を知り、逆に生産者たちは自分たちの作る原材料がどのようなチョコレートとして製造されるのかを知る。そうしてお互いの取り組みや考え方を、直接会って理解し合うといった利点があります。
中でもダンデライオン・チョコレートが、最も多く使用しているカカオ豆の産地、ドミニカ共和国でサステナブルな取り組みに力を注いでいるのが、「ソルサル・カカオ(Zorzal Cacao)」です。ここでは「ソルサル・エステート」と「ソルサル・コミュニタリオ」というスペシャリティカカオを製造、販売しており、ダンデライオンも製造の工程の一部ではそちらを使用しています。ダンデライオンがソルサル・カカオを信頼し、パートナーとして選定した背景には、ソルサル・カカオがカカオの生産を通して、野鳥保護と森林保全を行う、サステナブルなビジネスモデルを構築している点にあります。
ソルサル カカオの創設者の一人、チャールズ・キルヒナーは学生のころ、ピース・コープ(日本で言う青年海外協力隊)に参加し、カカオ豆の発酵箱の製造やオーガニック認証取得のための生産体制を整える経験をしました。当時、森林経済学を学んでいた彼は、この活動を経て、森林保全とカカオを組み合わせることで持続可能な経済を創ることが出来るのではないか、と考えソルサル・カカオを創設。そして、ドミニカでは初となる個人資本による野鳥の保全区域を設定し、面積の70%をツグミの保護区(レゼルバ・ソルサル)として「永久に完全な自然状態」で維持し、残りを高品質カカオの栽培用として使用すると言う、「ツグミの保護」と「カカオ豆の生産」の二つを主軸としたサステナブルな挑戦を始めたのです。
そこで栽培したカカオ豆から「ソルサル・エステート」を作り出し、さらには近隣の農家からもカカオ豆を購入して「ソルサル・コミュニタリオ」として、2種類のスペシャリティカカオ豆を生み出しました。今ではドミニカ共和国の森林再生活動にも積極的に関わり、プラン・ヴィボというカーボン・オフセットプロジェクトにも参画して、さらなるサステナビリティを実行しています。そんなサステナブルなビジネスモデルを構築して実践する「ソルサル・カカオ」にダンデライオンは共鳴し、彼らの豆を使うことでより地球環境にもやさしいチョコレートの製造を行なっているのです。
先に訪れた、フェリービルディング マーケット プレイスの中にも、ダンデライオン・チョコレートのカフェがあり、ホットチョコレートを飲むお客さんを見かけました。あの場所が地元産や、オーガニック食材、持続可能性にこだわるお店が立ち並んでいると言う背景を考えると、ダンデライオン・チョコレートがフェリービルディング内に出店していたことにも思わず納得です。
夕食にやってきたのは、SFMOMAや私たちが宿泊しているWホテルからも歩いていけるほど近くに位置する、シーフードメニューを提供する「Aphotic(アフォティック)」です。
「Aphotic」と言う耳馴染みのない名前は、「光のない」を意味するギリシャ語に由来しており、世界の外洋の大部分を占める、太陽光が 1% 未満しか届かない海洋層 (深さ1000メートル) を指しているのだとか。言われてみると、大きさを変え連なる年輪のような輪っかが印象的なお店のロゴマークは、海図に描かれる線のようにも見え、中心にさりげなく浮かび上がる「a」の紋様がお洒落で洗練されています。深淵のような仄暗いライトアップの店内の中央にはダイニングのメインとも言える木のグリルとオーブンが並び、炎がチラチラと燃え上がります。
こちらのレストランは世界で最も有名なグルメ指標の一つでもある「ミシュラン」の一つ星と、さらにその中でも持続可能な実践において業界の最前線に立つレストランに授与されるミシュラングリーンスターでも星を獲得している、サンフランシスコ内でサステナブルを検証する上では外せない一流レストランなのです。ミシュラングリーンスターを獲得する多くのレストランは、生産者や農家、漁師などと直接協力し、原材料の産地や農産物の季節性、レストランの環境フットプリントや食品廃棄物システム、一般廃棄物の処理とリサイクル等、至る所にこだわりを持っています。さらに環境への配慮を超えて、倫理や福祉に関連する問題に対処したり、地方、国、世界規模の慈善活動や教育プロジェクトに貢献することもよくあるのだそうです。2020年に初めて発表されたミシュラングリーンスターは、2021年版のミシュランガイドより掲載が始まっています。
Aphoticでは透明性とトレーサビリティを中心目標とした取り組みを行っており、カリフォルニア沿岸の漁師や養殖パートナーから直接調達した上質なシーフードを用いてドライエイジングや発酵などの技術を活用しながら、10種類に及ぶ季節のペスカタリアン(肉類を避け、魚介類は口にする主義者の総称)メニューを提供しています。テイスティングメニューには味噌を使用したスープ(味噌汁!)や醤油とピーナツのソース、お餅を使用した料理など、日本人にもなんだか馴染みがあり、かつ斬新な組み合わせに発見もある、色々な意味で驚きのメニューが次々と提供されます。ワインセラーには 実に7,000 本以上のボトルがあるそうで、希少なシャンパーニュと 50 年以上にわたる伝統的なカリフォルニアのワイナリーに焦点を当てた、ほぼ 100 年にわたるヴィンテージのものも網羅されています。料理と一緒にペアリングもできて、来店前に予約すればソムリエと事前ミーティングをした上でワインの選別もしてもらえるのもワイン好きには嬉しいサービスです。
初めの一口からデザートのフィニッシュまで、テイスティングメニューはもちろん、カクテルに至るまで、海にちなんだシーフードメニューが目の前に現れます。特に驚いたのはオイスターアイスクリームで、初めて口にするそれは、潮の香りとオイスターの旨味が冷たいシャーベットとして口内で解けていき、まさに筆舌しがたい絶妙の旨さであと何個でも食べられると思うくらいの感動体験でした。
文:神田聖ら(ethica編集部)
次回は、プレシディオ・トンネル・トップスやゴールデン・ゲート・ブリッジなど、市内を観光しながらサンフランシスコのサステナブルな旅を引き続きリポートしていきます!
【あわせて読みたい】宇賀なつみ サンフランシスコ編
出演:宇賀なつみ
1986年東京都練馬区生まれ。2009年立教大学社会学部を卒業し、テレビ朝日入社。入社当日に「報道ステーション」気象キャスターとしてデビューする。その後、同番組スポーツキャスターとして、トップアスリートへのインタビューやスポーツ中継等を務めた後、「グッド!モーニング」「羽鳥慎一モーニングショー」「池上彰のニュースそうだったのか」等、情報・バラエティ番組を幅広く担当。2019年に同局を退社しフリーランスとなる。現在は、『土曜はナニする!?』(関西テレビ)、『池上彰のニュースそうだったのか!!」(テレビ朝日)、『日本郵便 SUNDAY’S POST』(TOKYO FM)等、テレビ・ラジオを中心に活躍中。
企画・構成:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年7月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」を創刊。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業12期目に入り、自社メディア事業で養った「情報力」と「アセット」を強みに「コンテンツ」「デジタル」「PR」を駆使した「BRAND STUDIO」事業を展開するほか、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を展開。
宇賀なつみさん初のエッセイ本『じゆうがたび』
気象アナウンサーからスタートし、スポーツキャスター、報道・バラエティ番組などキャリアを積み重ねる中で湧き上がった心情や直面した壁を、旅先の記憶と共に綴った55のエッセイ。学生時代・プライベートのことなども飾らずに語られています。等身大の宇賀なつみが惜しみなく表現されていて読み進めるごとに人としての彼女を好きになっていく…、そんなエッセイ本です。
『じゆうがたび』は発売中
詳しくはこちらから
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
次の記事 |
---|
前の記事 |
---|
いいねしてethicaの最新記事をチェック
フォローしてethicaの最新情報をチェック
チャンネル登録して、ethica TVを視聴しよう
スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます