単一品種・単一農園を掲げ、妥協せずに本格的で正真正銘のチョコレート製造に挑み続けているベルギー発のチョコレートブランド「ブノワ・ニアン」。昨年9月に日本のフラグシップ店舗となる「ブノワ・ニアン 銀座」をオープンした同ブランドは、この度1周年を迎え、記念となるアニバーサリーボックスやペルーの自社農園のカカオ豆を使用したタブレット、カフェメニュー等を販売しました。今回ブノワ・ニアン氏が来日して、一足先に新メニューを体験できる試食会が開催され、エシカ編集部も取材を行いました。
一周年の旗艦店「ブノワ・ニアン 銀座」でチョコレートのコース料理体験
ブランドカラーでもある鮮やかなスカイブルーのような青が印象的な店内に入ると、チョコレートのためにひんやりした空気が漂い、上品な静謐さが感じられます。ブランドのロゴにも象徴される望遠鏡のアイテムと、カカオ農園を再現するような食材がそこここに飾られています。ここに住みたい!と思うくらい洗練されつくしたインテリアが素敵です。
(ブランドロゴは、望遠鏡をのぞいた先に海に浮かぶ船の帆が見えているイメージでデザインされており、最上のチョコレートを作るために世界中を旅しつづけるという想いが込められているのだとか。)
今回味わったコース料理「Cours au Perou(コース オ ペルー)」はペルー農園「FINCA LUIS DE SISA(フィンカ ルイ デ シサ)」までの道のりをブノワ・ニアンさんと共に冒険する様子を表現し、一皿ずつこだわって作られたコース料理。
始まりのタブレットの一口から、味の奥深さと香りの質の高さを感じる料理が次々にサーブされます。ずっと甘いテイストが続くのかなと予想していましたが、紅芋やドライバナナ、ココナッツソースや桃など、相性の良いさまざまな食材が使われているため、甘さ一辺倒で飽きるといったこともなく、全てのスイーツに驚きや楽しみがあり、最後までフレッシュに味わうことができました。
ペルーのマルシェから農園を目指して出発をイメージした「Entrée au marché(アントレ オ マルシェ)」。バナナのコンフィチュールやライム香るクリームチーズが絶妙です。
ペルーのお米を使用した「アロス・コン・レチェ」風スイーツRoute escarpée(ルート エスキャペ)」。農園へ向かう険しい道中でのパワーチャージをイメージして創られています。上に被さって蓋になっているチョコレートを砕いて一緒に食べるとパリパリの食感になって最後まで楽しい一品です。
ペルー農園に到着したことを表すのは、ペルー農園のチョコレートを使用したビスキュイがカカオポッド型のチョコレートの器に入っている「FINCA LUIS DE SISA(フィンカ ルイ デ シサ)」。ビスキュイは「フィンカ ルイ デ シサ 72%」を使用したクッキーで、程よい甘味とサクサクかつしっとりした特別な食感がやみつきになりそうです。
ブノワ・ニアンさん、アン・ニアンさんへのインタビュー
——昨年エシカ編集部ではサンフランシスコに行って、ダンデライオンチョコレートさんの工場を取材いたしました。ダンデライオンの創業者の方は、シリコンバレーのエンジニア出身という異色の経歴をお持ちでしたが、ニアンさんと類似点があるなと思いました。
ブノワ・ニアンさん: 実は彼らとは知り合いで、自宅に遊びに来てくれたこともあります。私たちも彼らのところへ遊びに行きました。大分昔の話になりますが、最初はペルーで出会いました。ペルーの政府に招待された旅行で、一週間前後でペルー全土を回ると言うツアーだったんですけれど、彼とはそこで出会ってキャリアがとても似ていたので意気投合したんです。他にもたくさん知り合いがいます。みんな繋がっていますよ。
——そうだったのですね。なぜカカオやチョコレートの製造、農園作りといったものに関わろうと思われたのでしょうか。
ブノワ・ニアンさん: 昔から、広い意味でのガストロノミーに興味がありました。その点で(共同経営者であり、奥様でもあるアンさんと)意気投合して、何か一緒に作りたいねとずっと話をしていました。私は、以前は大手の製鉄会社で軍事産業に関わるエンジニアをしていて、妻のアンは金融関係にいました。
なぜチョコレートを選んだのかと言うと、無限の可能性を秘めた分野だと思ったからです。絶対に全てを知り尽くすことができない、常に学んだり発見したりすることが永遠にできる世界だと思った。
実はチョコレートの味を完全に把握するというのは、今までできた人がいないんです。と言うのも、世界のほとんどのチョコレートを製造しているのは大手の多国籍企業で、そこが寡占しているわけです。そういった大手企業が求めるのは、生産性効率を高めることと、安定した供給です。本当の高級なチョコレートの味に言及した人、それを付加価値だと言い切れた人は誰もいないでしょう。そこが気に入りました。前人未到の世界に足を踏み入れることができると思ったからです
——今日いただいたコースの中でも、最初に出てきたタブレットのチョコレートを一口食べたときに、これは全く今までのものとは違うな、と感じました。
ブノワ・ニアンさん: ありがとうございます。ほんとにそうなんです。ペルーのタブレットで、昔から温めて努力を続けていたプロジェクトです。最初の苗木を植えたのは2016年で、机上の計画ではスムーズに全て滞りなく進める見通しでした。今まで(以前の職種では)我々はそういう世界にいた。ところがカカオの栽培と言うのは自然が支配している。相手が自然なんです。ですから最後の最後まで、計画通りに行くかどうかは分かりませんでした。その私たちの思いを具現化したその結晶が、今日皆さんに味わっていただいたタブレットです。
——シーズンによってまた毎年味が違うのでしょうか?
ブノワ・ニアンさん: 完全には変わりません。というのも、テロワール(土壌)は変わらないから、セパージュ(品種)も変わらない。ブレンドもせず、品種を変えないから、その品種と土壌が生み出す味の根幹と言うのは揺るがないのです。
——ワインに近い感覚なのですね。
ブノワ・ニアンさん: 全く同じです。でもワインはそれが知られているけれど、チョコレートにおいては誰も知らない。前人未到な世界です。
——単一農園・単一品種にこだわっているのは、そこの味の追求に関わっているのでしょうか。
ブノワ・ニアンさん: その通りです。極めて複雑で、無限のアロマのニュアンスを秘めている。チョコレートを作るにはそれしかないと思っています。(例えば)すごく高級で、良質な2種類のカカオ豆を使ってチョコレート作ったとします。おいしいチョコレート2つをブレンドするわけです。でもそれが足し算にならない。良さが2倍になるのでもなくて、微妙なアロマのニュアンスが相殺されてしまうんです。お互いをつぶしてしまう。
——先ほど、チョコレートの本当の味をわかっている人は世の中に少ない、と言う話がありましたが、そこに可能性があるんですね。
ブノワ・ニアンさん: 私たちのチョコレート工房はベルギー生まれです。ベルギーと言えばチョコレート。山のようにチョコレートを作っているメゾンはあります。でもうちと他が違うのは味です。最初にうちに来るお客様は、まぁ今までと同じようなチョコレートだろうと思って来るのですが、他との違いがわかった人が再来店してくださっています。
——なるほど。他とはブレンドしないシングルオリジンと言うところで、食べる側も味に敏感になってくるのでしょうか。
ブノワ・ニアンさん: その通りです。そのほうがずっと面白い。口の中で変化するのですから、集中しないと味わい尽くせないんです。量産品だと「このチョコレートは苦い」で終わってしまう。
アン・ニアンさん: 私たちが直接取引をしている、小規模の農家がどういう仕事をしているかの実証でもあります。単一品種・単一農園にすることによって、ここの農園の、このカカオが、こういう形で発酵され、こういう形で乾燥され、そしてそのチョコレートになって、この味だ!と。味が、その農家の仕事の結果と直結するんですね。それはその農家の仕事を象徴するチョコレートになります。
——日本でも生産者の顔が見える商品というものがあります。それは消費者からすると、安心や信頼につながります。生産者側からすると、自分たちのプライドやプレゼンテーションの形でもある。
アン・ニアンさん: おっしゃる通りですね。それは最終的な消費者と生産者の距離を縮める作業だと思います。
——生産者たちも、自分たちの土地で作ったものだと言う責任が伴いますね。
ブノワ・ニアンさん: そうですね。お互い、相互に不可欠な存在になっている。パートナーの生産者は、私たちのためにすごく努力をしてくれて、乾燥ひとつとっても特定の時間や、私たちが頼む時間をきちんと守ってくださり、誠実に努力をしてくださっています。豆も厳選して収穫し、きちんと品種を分けてくれるんです。こういったことは、普通はやらないです。ほとんどの場合はごっそりまとめて買われていくので、誰もどの品種が何である、とは言わない。でも(パートナーの生産者は)私たちに売りたいから、私たちのためにちゃんと選別をしてくれる。結果、自分たちが生産しているものに対して、付加価値を自ら与えることができているんです。
——それはそうした技術を教育されている面があるのでしょうか?
ブノワ・ニアンさん: そういう方もいますし、そうじゃない方もいます。もちろん、私たちが独占で買っているわけではありませんので、アグロエンジニアと言う農業に特化した技術のエキスパートがいるのですが、そういった方々を政府が任命して派遣することも多いです。学生が卒業して、研修としてその農家にサポートに入るということもあります。確かにそうして教育やアドバイスを受けないと、どうやって付加価値を与えれば良いかを想像もできないわけです。日常的には大手のバイヤーがごっそりまとめて買って行き、それで仕事は終わりだとずっと習慣的に思ってきたので、そこにどうやって付加価値を与えられるのかと言うのはアドバイスを受けないとわからない。
——フェアトレードやサスティナビリティを実現させようと言う思いが先にあると言うよりは、相手へのリスペクトがあることで、結果的にフェアトレードになっていると言う流れなのですね。
ブノワ・ニアンさん: その通りです。フェアトレードになっているのは本当に、結果なんです。すべての源には味があります。第一義的な目的として追求しているのはまず、味です。
——たとえ社会のためになっても、結局は売れないと循環しないですし、食べ物は美味しいことが大前提ではありますよね。
ブノワ・ニアンさん: はい。(あなたたちのような)素晴らしいメディアが、このことがいかに大事かと言うことを、消費者や生産者に対して発信していると言う事はすごく大事なことだと思います。
——どうもありがとうございます。これからも応援しています。
BENOIT NIHANT GINZA(ブノワ・ニアン 銀座)
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座 4-6-18 ギンザアクトビル1F、B1F
アクセス:銀座線・日比谷線・丸ノ内線 銀座駅 徒歩1分
営業時間:11:00~21:00
定休日:なし(年末年始休)※休業日・営業時間が変更になる場合がございます。
公式オンラインショップ:https://benoitnihant.jp/
カフェ予約:https://www.tablecheck.com/ja/benoitnihant-ginza/reserve/landing
文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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