【企業トップインタビュー】エクリプス・フーズ・ジャパン 代表取締役 御宮知香織
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【企業トップインタビュー】エクリプス・フーズ・ジャパン 代表取締役 御宮知香織

エクリプス・フーズ・ジャパン株式会社 代表取締役 御宮知香織 Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

乳製品と見分けがつかないほどクリーミーでなめらかな100%植物性のプラントベースアイス「エクリプスコ」を提供するエクリプス・フーズ。近年、ヴィーガン思考の方だけでなく、生活習慣病のリスクを低減させる等の健康面からプラントベース製品を選択する人も増えているなかで、手軽にアイスに手を伸ばせる選択肢が増えていくのは消費者としても嬉しいことです。今回は、日本法人であるエクリプス・フーズ・ジャパン株式会社の代表、御宮知香織さんにインタビューを実施し、ご自身が代表を務めることになった経緯やブランドへかける想いなど、詳しくお話を伺いました。

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ミシュランスターシェフが開発した代替乳製品の原材料「エクリプス・デザート・ブレンド」を使用したプラントベースアイス

シリコンバレーで設立されたフードテック企業

——まずは、エクリプス・フーズを知らない方もいらっしゃると思いますので、どのような事業を行っている会社かお伺いできますか。

御宮知さん: エクリプス・フーズは、2019年にシリコンバレーで設立されたフードテックのスタートアップになります。トーマス・ボウマンとエイロン・ステインハートの二人が創業者となって立ち上げました。トーマスは、ちょうどこの会社を立ち上げた頃に子供が生まれて、次の世代にきちんとサステナブルで環境に良くて、供給も安定できるような食のプラットフォームを残していきたい、と言う想いを持ってこの会社を立ち上げております。

「エクリプス・フーズ」と言う社名には「日食」という意味があるのですが、小さなスタートアップを月に例えて、大きな乳製品業界を太陽としたときに、ちゃんとしたタイミングと、きちっとしたポジションをとれば大きな影響を与えられるのではないか、と言う意味合いを込め、またトーマス自身が幼少期の頃に日食を見て非常に感動したという、そういった体験も重ねて「エクリプス・フーズ」と言う社名になりました。

——社名は「エクリプス・フーズ」ですが、アイスの商品名は「エクリプスコ」ですよね。

御宮知さん: アメリカでは「エクリプス(eclipse)」で展開をさせていただいておりますが、日本で商品名を色々と鑑みたときに、日本の商品は日本の食材を活用した独自のフレーバー展開をしていくため、日本とアジアにおいてはブランドを棲み分けた方が良いと考え、最後にエコロジーの“eco”をつけて「エクリプスコ(eclipseco)」という商品名で展開をさせていただいております。ただ、社名のほうは本国のエクリプス・フーズを引き継いで「エクリプス・フーズ・ジャパン」になっております。

食べられておいしい、体験できるSDGs

——カラフルでPOPなパッケージが可愛いですね。ヴィーガン系の商品ではあまり見ないようなデザインとカラーが印象的です。

御宮知さん: 我々としても、堅苦しいことを先に申し上げてもなかなか皆さんに手に取っていただけなかったり、楽しんでいただけなかったり、ということがあるかと思いますので、「食べられておいしい、体験できるSDGs」と言うような立ち位置をとっております。まずは手に取っていただいて食べていただく。そこが非常に大事だと思うので、パッケージのほうもあまり茶色とか白とかオーガニックっぽいものではなくて、本当に可愛いと思って手に取っていただいて、しかも食べて美味しいから続けていたら、実は地球に良かった、自分の健康にも、トランス脂肪酸とかコレステロール値が入ってなくてヘルシーなものだった、と言うようなところを目指してご提供させていただいております。

——実際に食べてみて、味の美味しさに感激しました。

御宮知さん: (手がけるのは)ミシュランシェフなので、味にはすごくこだわっております。彼としてもやはり、美味しくないと続かないから、どんなに環境に良い商品を作ったとしても、食べ物は美味しさがまず第一だ、と言う部分は妥協したくないと言っております。わざわざ、「これがプラントベースで環境に良いから買ってください!」と言うのではなくて、同じ棚に並んでいても美味しいからそれを手に取ってもらえる、乳製品とも戦っていけるような商品を作っていかないと、結局そちらのほうにシフトしていくことができないんじゃないかと思っております。ただ、味を第一に改善しながらも、それで価格が1000円や1200円になってしまうと手に取ってもらえないので、価格の競争性もきちんと乳製品と同じくらい(の価格帯)で提供ができる物というのを目指し、それを作っていくためにはどういう原材料を使えばいいのか、というのをシェフのバックグラウンドを生かしながら開発しています。

今はファミリーマートさんで、ハーゲンダッツさんと全く同じ価格(325円・税込351円)で販売させていただいております。コンビニの中ではプレミアムアイスクリームと言われる価格帯になりますが、普段からヴィーガンやプラントベースのアイスを買われている方にしてみれば、その価格で購入できるのであれば、ぜひ買いたいと言ってくださる方もたくさんいらっしゃいます。と言うのは、巷でアイス専門店とかコーヒーショップでプラントベースアイスを買うと、600円や800円で売ってらっしゃるようなところがほとんどなので、もう少し手軽な価格で手に取れるのは嬉しい。と仰っていただけてます。我々も最初プレミアムアイスとして戦っていけるのかなと言うところは不安でしたが、3月のローンチの時は3週間で80%の配下があっという間に売り切れまして、今は店舗を拡大しての販売を計画しているところです。

おしゃれでかわいい

——パッケージがおしゃれでかわいいから選びやすいと言う点もありますね。

御宮知さん: そうですね。「パケ買い」をしてくださる方もいらっしゃいますね。とりあえず手に取ってしまう、みたいなところもあります。

——ハーゲンダッツさんは、「プチ贅沢」と言う習慣のサイクルがうまく回っていらっしゃいますね。

御宮知さん: そうですね。ハーゲンダッツさんがアイス市場をプレミアムのほうに引き上げてくれた、ということがあります。ギリギリ買っていただけるプチ贅沢の価格帯を目指して販売しています。

最近では、ハーゲンダッツさんもグリーンクラフトと言うソイベースのアイスを出されている等、大手企業も環境配慮商品を手掛けられるようになってきました。この傾向は、我々にとって脅威ではなく、むしろ市場を醸成していくと言う意味でプラスに働くと思っております。市場を拡大していくためには、他のプレイヤーさんもいてくださった方がありがたいですし、我々が最終的に目指していくところは粉(*エクリプス・フーズの特許技術により生み出された植物性アイスの原材料「エクリプス・デザート・ブレンド」)をご提供していくところですので、弊社のブレンドをハーゲンダッツさんが使っていただいて美味しいプラントベースの商品を出していく、と言うことも可能性としてはゼロではないのかなと。今はいろんなアイスクリームメーカーさんに原材料としての粉をサンプル提供しながら、協業の可能性をご相談させていただいています。また、アイスのみならず、ミルクもパウダーでご提供が可能です。パウダーの状態でお渡しした場合は、水や油等を加えていただけると、最終的なミルク等の商品に仕上がります。それで例えば、カフェラテ商品を作るとか、何かしらのパッケージにしていく、みたいなところも企業さんとお話しさせていただいているところです。

業務用の市場が堅調

——将来的には、BtoBの面で大きな可能性がありそうですね。

御宮知さん: 我々は小さいスタートアップで人数もリソースも限られていますので、自社製品だけ作って販売していては社会にインパクトが与えられないと思っています。企業さんとパートナーシップを組むことによって、「エクリプスが入っている」「このエクリプスのマークがあれば、おいしいプラントベース商品だ」と言うふうに認知していただけるような世界観を目指してやっています。

アメリカの方でも最初、ホールフーズ(「Whole Foods Market」)さんやセイフウェイ(「Safeway」)さんといったスーパーで販売させていただいていたのですが、どちらかと言うと業務用の市場の方が非常に伸びており、いまは80%以上が業務用の収入に変わってきています。比率が変わったと言うよりは、業務用がぐっと伸びてきている状態です。アメリカではスマッシュバーガー(Smash Burger)さんと言う、全国チェーンのハンバーガーショップのシェイクの原料として使っていただいております。全米で初めてのプラントベースシェイクだったということで、メディアにも多数取り上げていただきました。そこは必ずしも健康志向の方が行くような店ではないのですが、乳糖不耐症と言って、乳アレルギーの一歩手前のような、乳製品を食べると少し体調が悪くなったり、お腹がゴロゴロしてしまったりする方が人口に一定数いらっしゃって、そういった方にNon Dailyで乳製品が入っていませんよ、と言う形の商品にしたところ、非常に好評で、売り上げも好調でした。

実はアジアの人口も腸内の牛乳を消化する酵素が少なくなっており、乳製品を飲んだり食べたりすると体調が悪くなる乳糖不耐症のような方が本来は多いはずなのですが、給食で牛乳を毎日飲んでいることで耐性ができている人もいますし、(一見)牛乳が健康に良いと捉えられがちなのですが、実はそれで体調を崩している方もいらっしゃるのではないかと思われます。

Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

——日本人は例えば江戸時代では乳製品を今日のようにとっていなかったという点で、現代でも人々の体質は本質的にほとんど変わらないはずなのに今は乳製品を取りすぎている、という事は確かに世の中的にも認知されてきていますよね。乳糖不耐症の方を想定するだけでも需要が多くありそうですね。

御宮知さん: そうですね。我々は先ほども申し上げたように、サステナブルな環境に良い商品を提供していきたいという想いもありますし、みんなで楽しめるような、アレルギーをお持ちの方でも一緒に食べていただける商品を提供していきたい、と言う想いで会社を運営しております。実はトーマス自身も20代から乳糖不耐症になってしまって、おいしい乳製品を植物性のものを使って作れないか、と言う事が常に彼のライフワークの中での課題だったということがあります。

—— ご自身の経験の中で乳製品に昔から引っ掛かりがあって、アイスや乳製品と言う分野に至った、ということなんですね。

御宮知さん: はい。彼のケイパビリティでしたら、代替食品であれば例えば牛肉の代わりのプラントベースミートなど、さまざまな選択肢があったと思うのですが、その中でやはり乳製品にイノベーションを起こしていきたいと思ったのは、彼自身のペインポイントから来たものが大きいのかなと思います。

あとは、畜産業が気候変動に与える影響も最近はメディアさんで特集されることが多くなってきたと感じておりますが、プラントベース商品である以上、牛を育てなくて良いので、育てる過程の肥料や設備も不要になります。よって必然的に、CO2排出がかなり抑えられます。今話題になっている、牛のゲップにメタンガスが入っていて、CO2に比べて温暖化効果が25倍あるだとか、一頭の牛から300リットルぐらいメタンガスが出てしまう、といったところも、我々のアイスであれば畜産業に依存せずに製造ができますので、(そういった点で)環境に優しいアイスでもあります。

欧米では、エシカル消費が活発

—— 日本は牧場で作られるアイスだとか、乳脂肪分たっぷりのクリーミーで濃厚なものを好む層も一定数いらっしゃると思いますが、その辺りはアイスを販売していく際に戦略的にはどうお考えでしょうか。

御宮知さん: そうですね、そこはなかなかチャレンジングな部分だなと思っていて、おっしゃる通り、牛乳神話と言いますか、牛乳を使っている方が美味しいと言うイメージをお持ちの消費者の方はまだまだたくさんいらっしゃいます。やはりおいしい商品を提供していくことで、「なんだ、食べてみたらこっちの商品も結構おいしいのね!」みたいな体験を増やしていくことで、だんだんとそこの層の方たちにもご理解いただけるようになっていくのかなと思っております。

アメリカやヨーロッパの方では、環境配慮や動物愛護の観点でエシカルな消費をしていこうというトレンドが非常に強くて、プラス100円や200円高くても、環境に良い商品を購入する消費者の方が結構いらっしゃいますが、日本はまだまだそこが購買のトリガーになるのは少し難しい部分があります。ただ、おいしさと価格のところで良いものが提供できれば買っていただけるので、逆にそこで競争することによって環境に良い商品だと言うことを知ってもらい、継続した購買につなげていければいいなとは感じております。

最近お客さまと接していて思うのが、小学生や中学生のお子さんが非常に熱心に私どものブランドシートを読みながら質問してくれたり、夏休みの課題を代替乳製品をテーマに自由研究を書きたいと言ってくれたりする方もいらっしゃるので、日本もあと10年ぐらい経つと消費者のマインドセットが大分変わってくるのかなと言う感覚はありますね。

Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

——それは頼もしいですね!ところで、御宮知さんが代表を務めることになったきっかけや背景の部分のお話をお伺いできればと思うのですが。

御宮知さん: ありがとうございます。エクリプス・フーズ・ジャパンでは、昨年の10月に日本法人を立ち上げた時から代表を務めさせていただいております。この会社に入る前はエクリプス・フーズに投資をしているベンチャーキャピタル(金融機関)におりました。もともとのキャリアは金融機関をバックグラウンドとしております。エクリプス・フーズの日本展開をベンチャーキャピタルの立場からサポートしているうちに、アメリカのチームメンバーともだんだん近しくなってきて、自分自身もその会社のことが可愛く思えてきてしまうというのと、事業に将来性も感じて、代表を引き受けることにしました。

(それ以前のキャリアは)一番初めは、J.P.モルガンという投資銀行におりました。上場企業の株が上がるか下がるか、といったことをレポートにする株式調査部と言うところにおりました。そこから出産を機に、人材開発系のコンサル業に移ります。(仕事内容としては)チームがどういう風に組成すると、よりみんなのやる気が育つか(といった内容)や、アメリカ側で流行っている組織開発やリーダーシップ論を日本に持ってくる等です。

その後はちょっと珍しいのですが、軽井沢で起業をしました。ファーム・トゥー・テーブル(farm to table)と言う無農薬の野菜やお米を1つの箱に詰めて、そのまま消費者の方に届ける、といった事業をしていました。その時は子供たちがまだ小さかったので、土に触れるような体験をさせたいと言う思いが強かったです。また、子供が3人いるのですが、生まれるたびに食べさせる責任みたいなものが強くなって、(そうした)食に対する思いや、生産者側に回ってみたいという気持ちもあって、農業に従事していました。

子供たちが中学や高校に進学するタイミングになって、田舎の方だと学校の選択肢が少なかったので、もう一度東京に戻ってきて、今度はベンチャーキャピタルという立場で色々なスタートアップの日本展開をサポートする仕事に就きました。その中でエクリプス・フーズに出会い、どんどんと代替乳製品を世の中に送り出す事業に惹かれていきました。自分がもともと大切にしていた食の部分に関われるというところにも惹かれましたし、環境配慮商品を生み出すことで社会に貢献できることも、とても嬉しいと言う気持ちがありました。

——いろいろな遍歴の中でも全てが繋がっているかのような親和性を感じます。

御宮知さん: そうですね。ただ、それをキャリアパスを考えて作ったのか、と言うとそんな事は全然なくて、いつもその場その場で想いを持って選んでいた選択肢が、振り返ってみるとなんだか繋がっていたなと言う感じです。

取材を終えて

ボウマン氏が自分自身、乳製品が好きなのに、乳糖不耐症になり食べられなくなったことから代替乳製品の開発をし始めたり、御宮知さんの子育てを通して感じた食への態度変容などのお話をお伺いしたことで、やはり自分自身の体験や生活に根ざした想いというのは強いモチベーションになるのだということを再認識し、いろいろな経験をしていくことが大事なのだなと感じ入りました。また、御宮知さんの人生遍歴は、偶然の産物とはいえ輪を描いているような、まるで「セレンディピティ」のような話であり、その正直で自由な身の振り方がイノベーションをもたらしていくのだろうな、という印象を受けました。

ポップアップストア詳細

【開催日時】
2024年12月26日(木)まで
11:00~17:00(最終入場:16:30)
月曜定休 ※月曜日が祝日の場合は、翌日が定休日となります

【場  所】
ITOCHU SDGs STUDIO RESTAURANT 星のキッチン Hanare
(東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden B1F)

東京メトロ 銀座線『外苑前』駅 出口 4a より 徒歩2分
東京メトロ 銀座線・半蔵門線・都営地下鉄 大江戸線
『青山一丁目』駅 出口 1(北青山方面) より徒歩5分

エクリプス・フーズ・ジャパン株式会社 代表取締役 御宮知香織

1979年東京都生まれ。2002年JPモルガンに入社。2004年人事コンサル会社に転職。2011年Farm To Tableのベンチャー企業を設立、軽井沢で無農薬野菜を育て直接消費者に届ける事業を始める。2019年東京に戻り、ヘルスケアスタートアップ企業のマネージング・ディレクターとして、日本展開に従事する。2022年Neurotrack社の投資家であるSozo Venturersに入社、複数のスタートアップ日本進出のサポートを務める。2023年Sozo Venturesの投資先であるEclipse Foodsの日本法人を立ち上あげる。

文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)

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