世界の難民問題を映画を通じて啓蒙 東京、札幌、仙台で「第10回UNHCR難民映画祭」開催
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世界の難民問題を映画を通じて啓蒙

国連難民高等弁務官事務所(略称UNHCR)は世界各地にいる難民の保護と支援を行なうため、1951年、スイスのジュネーブを拠点に活動を開始した国連機関です。

著名な女優アンジェリーナ・ジョリーさんが特使を務めていることでご存じの方もいらっしゃるでしょう。

©UNHCR/A.McConnell

そのUNHCRでは10月2日の東京(3日・10日・12日)を皮切りに、札幌(10月24日・25日)、仙台(10月31日・11月1日)で「第10回UNHCR難民映画祭」を開催することとなり、9月3日、日本記者クラブで記者会見およびプレ上映会が行われました。

1人でも多くの日本人が難民の状況を理解してくれれば……

記者会見にはUNHCR駐日代表、マイケル・リンデンバウアーさんが出席、UNHCR難民映画祭の概要や今回の新たな試みについて説明されました。

その中でリンデンバウアーさんは、

「UNHCR難民映画祭は世界中から集められたさまざまなドラマやドキュメンタリーを通じて、難民や国内避難民、無国籍者に関する啓発を行おうというものです。この映画祭によって、世界中に6000万人もいる難民たちの状況を1人でも多くの日本人に理解してもらうとともに、彼らが厳しい状況にありながらもいかに力強く生きているのかを知ってもらうことがその目的です。そして、この映画祭が難民たちにとって今、何が必要で、そのために私たちが何をしなくてはいけないのかを考えるきっかけになってくれればと思っています」

と語り、日本の社会が、これまで以上に難民に対して関心を持ち、支援の輪が広がっていくことを願っていました。

日本初上映の8作品を含む10作品を公開

今回の上映作品は

○グッド・ライ~いちばん優しい嘘~(アメリカ)

○ホープ(フランス)*カンヌ国際映画祭2014批評家週間SACD賞

○ボクシング・フォー・フリーダム(スペイン・アフガニスタン)

○目を閉じれば、いつもそこに~故郷(ふるさと)・私が愛したシリア~(日本)

○人の望みの喜びよ(日本)*第64回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門スペシャルメンション受賞

○忌まわしき罪(アメリカ、カナダ、ジャマイカ、オランダ、イギリス)

○トランキランディア―穏やかなる土地(コロンビア)

○三つの窓と首吊り(コソボ・ドイツ)

○アントノフのビート(スーダン・南アフリカ)*トロント国際映画祭2014観客賞

○ヤング・シリアン・レンズ(イタリア)

の、シリア、南スーダン、日本、ジャマイカ、コソボ、アメリカ、アフガニスタンなどを舞台にした10作品で、このうち「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」「人の望みの喜びよ」以外の8作品は日本初上映となります。

プレ上映会では、シリア・アレッポの苛烈を究める悲惨な日常をメディア・アクティピストたちの活動を通じて切り取るPOV(Pоint оf View=主観ショット)型のドキュメンタリー「ヤング・シリアン・レンズ」が上映されました。

© Ruben Lagattolla フィリッポ・ビアジャンティ、ルーベン・ラガットッラ共同監督 イタリア / 2014年 / 52分 / ドキュメンタリー 日本初上映

画面に映し出される映像は劇映画のような編集を施していない生の、悲惨な現実そのものであり、会場に集まった人たちは食い入るように見つめていました。

ちなみに、UNHCR難民映画祭は毎年、さまざまな協賛団体の協力と個人の寄付によって開催されています。入場は無料ですが、各会場とも寄付を募っています。

ヤング・シリアン・レンズ  <日本初上映>

フィリッポ・ビアジャンティ、ルーベン・ラガットッラ共同監督作品

イタリア / 2014年 / 52分 / ドキュメンタリー

シリア、アレッポの苛烈を極める悲惨な日常をメディア・アクティビストたちの活動を通じて切り取るPOV(Point of View、主観ショット)型のドキュメンタリー。シリアの反体制抵抗運動の一端を担う組織的な活動として台頭した彼らだが、その武器はAK-47ではなく、カメラと情熱だけである。画面に映し出される映像は劇映画の様な編集を施していない、メディア・アクティビストたちと行動を共にした取材班による撮影ならではの生の、悲惨な現実そのものである。

上映スケジュール

10月12日(月)イタリア文化会館(東京) / 19:00開始

UNHCRの活動に欠かせない企業の支援

記者会見終了後、リンデンバウアーさんにお時間をいただき、お話を伺いました。

UNHCR駐日代表 マイケル・リンデンバウアー氏

「UNHCRは当初、第二次世界大戦直後のヨーロッパにおいて難民の援助をするために誕生しました。UNHCRは恒久的な機関ではなく、もともとは暫定的な機関でした。当時、5年もあれば、ヨーロッパの難民問題は解決してそこで解散になるだろうと考えていました。ところが、その後数十年間、さまざまな理由から世界の各地で国を追われ、移動を余儀なくされる人々が増えるにつれて、UNHCRは恒久的な機関となり、その存在意義は年を追うことに大きく、そして重要になってきています」

「UNHCR難民映画祭が始まった2006年当時、世界の難民は4000万人でした。それが10年経った今では6000万人にもなっています。10年間で2000万人も増えるとは想像もしていなかったことです。それは世界中に紛争の数が増えていることを表しているのですが、悲劇的な現状であるといわざるを得ないでしょうね。私たちもこれまで以上に活動の輪を広げていかなくてはと考えています」

「私たちUNHCRの活動に企業の支援は欠かせません。例えば、ユニクロはとても大事なパートナーです。ユニクロは難民に対して、必要な枚数を的確に、必要としているところに届けるという衣類の支援をしていますが、輸送や、活動する上での費用も負担するなど、金銭的な協賛もしてくれています。また、子供たちに対する啓発活動も行っており、今年は全国238校の小学校での出張授業を実施している他、日本に住む難民を雇い入れることで就労の機会を与えています。こうしたユニクロのように、難民問題に関心を持って、私たちの活動を支援してくださる企業が増えてくると嬉しいですね」

主催/パートナー/協賛/協力/上映共催/後援/大学パートナーズ

今年初の試み「UNHCR難民映画祭 大学パートナーズ」

UNHCR難民映画祭は、東京、札幌、そして今年新たに仙台を加え、全国3都市での開催となりました。それが今年の大きな話題です。

そして、もう一つ、今年からの新たな試みとして「UNHCR難民映画祭 大学パートナーズ」を開始しました。

これは日本において難民問題の教育・啓発活動に欠かせない大学機関と連携し、紛争や迫害によって家を追われた人々の問題について理解を深めてもらおうというものです。今回、青山学院大学、関西学院大学、国際基督教大学、上智大学、鶴見大学、北海道公共政策大学院、明治大学、明星大学、早稲田大学の9校と早稲田大学J-FUNユースの1グループが参加、各大学は映画祭で過去に上映された作品や今回上映される作品の上映イベントをそれぞれの学校で主催する予定になっています。

記者会見の会場には、大学パートナーズに参加している早稲田大学の鈴木光悠さん(政経学部5年生)、湯山秀平さん(商学部4年生)、青山学院大学の大場みのりさん(総合文化政策学部3年生)の3人が参加しました。

鈴木さん、湯山さんは早稲田大学の一機関として「社会と大学をつなぐ」、「体験的に学ぶ機会を広く提供する」、「学生が社会に貢献することを応援する」ことを目的に2002年4月に設立されたボランティアセンター「WAVOC」(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター)に所属しています。

早稲田大学 鈴木光悠さん(政経学部5年生)

「1年間フランスに留学していた時、実際に多くの難民問題について学び、難民問題に興味を持つようになりました。映画祭のことは今回初めて知りましたが、意義のあることだと思います」(鈴木さん)

「WAVOCでボルネオ島のプロジェクトに参加して、難民と触れ合う機会を得ましたが、今回の映画祭でボルネオ以外の難民の状況が分かり、とても勉強になりました」(湯山さん)

早稲田大学 湯山秀平さん(商学部4年生)

青山学院大学 大場みのりさん(総合文化政策学部3年生)

一方、大場さんの場合は、学部のプロジェクト「映像翻訳ラボ」で大学パートナーズに参加し、上映作品の1つ「ボクシング・フォー・フリーダム」の字幕作成も担当しているとのことです。

上映された「ヤング・シリアン・レンズ」を観た大場さんは、

「子供たちが人の死に慣れてしまっているところがとても悲しい。こういう子供たちを1日も早くなくしていかなくてはと思いました」

と感想を語っていました。

【上映スケジュール】

東京

10月 2日(金)スパイラルホール

18時30分~「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」

3日(土)スパイラルホール

13時~   「ホープ」

16時~   「ボクシング・フォー・フリーダム」

19時~   「目を閉じれば、いつもそこに~故郷(ふるさと)・私が愛したシリア~」

10日(土)イタリア文化会館

13時~   「人の望みの喜びよ」

16時~   「忌まわしき罪」

19時~   「トランキランディア―穏やかなる土地」

12日(月)イタリア文化会館

13時~   「三つの窓と首吊り」

16時~   「アントノフのビート」

19時~   「ヤング・シリアン・レンズ」

札幌

10月24日(土)札幌市時計台ホール

19時~   「目を閉じれば、いつもそこに~故郷(ふるさと)・私が愛したシリア~」

25日(日)札幌プラザ2・5

13時~   「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」

16時~   「ホープ」

19時~   「ボクシング・フォー・フリーダム」

仙台

10月31日(土)せんだいメディアテーク

13時~   「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」

16時~   「ボクシング・フォー・フリーダム」

19時~   「目を閉じれば、いつもそこに~故郷(ふるさと)・私が愛したシリア~」

11月 1日(日)せんだいメディアテーク

13時~   「人の望みの喜びよ」

16時~   「ホープ」

19時~   「忌まわしき罪」

■第10回UNHCR難民映画祭はこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/

記者 清水 一利(しみずかずとし)
1955年千葉県市川市生まれ。明治大学文学部(史学地理学科日本史専攻)を卒業後、1979年、株式会社電通PRセンター(現・株式会社電通パブリックリレーションズ)に入社。クライアント各社のパブリシティ業務、PRイベントの企画・運営などに携わる。1986年、同社退社後、1987年、編集プロダクション・フリークスを主宰。新聞、雑誌(週刊誌・月刊誌)およびPR誌・一般書籍の企画・取材・執筆活動に従事。2012年「フラガール3.11~つながる絆」(講談社)、2013年「SOS!500人を救え~3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)を刊行。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)〜
http://www.ethica.jp

清水 一利

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