バスルーム、キッチン、トイレ、そして出かける時も。日常生活に欠かせないタオルですが、意外とこだわって選ぶことは少ないのでは? 極上の使い心地と耐久性がありながら、人にも地球にも優しくサスティナブル。そんな「選びたくなるエシカルなタオル」に注目が集まっています。
ファッションもコスメも食事も素材にこだわっているのに、毎日使うタオルには無頓着。 筆者は正直、ほとんどをいただきものや景品のタオルで済ませていました。タオルはタオル、デザインが違うぐらいでそんなに変わらないよね……。そんな風に思っていたのです。
しかし、あるタオルメーカーに出あい、目からウロコが落ちるほどの衝撃と感動を覚えました。
最大限の安全と最小限の環境負荷でーー。導かれた答えは「オーガニックコットン」
IKEUCHI ORGANIC。その前身である池内タオルは、古くから織物の街として栄えた愛媛県今治市に1953年、創業しました。今治の多くの同業者がそうだったように、国内外のハイブランドのライセンスを受けたOEM商品を主力商品として手がけてきました。
そんな中、1999年、自社ブランド「IKT」を立ち上げます。きっかけは、今治と本土を結ぶ橋「しまなみ街道」の開通。観光客を見越し、地場のお土産品としてオリジナルタオルの生産を始めたのです。そのときこだわったのが、オーガニックコットン。長年培ってきた技術力とノウハウで織り上げたオーガニックタオルは、国内外の展示会で高い評価を得て、2002年には全米最大規模の「NYホームテキスタイルショー」で、世界32カ国1000社の中から5社のみに与えられる最優秀賞を受賞。また同年、環境負荷を最小限にするため、タオルの製織工場を日本初の100%風力発電に切り替えました。こうして「IKT」のタオルは「風で織るタオル」と称され、環境への意識の高いユーザーを中心に注目を集めます。そして、その使い心地の良さからリピーターが増え、クチコミで評判が広がっていきました。
ところがその矢先、思いもよらない苦境に立たされます。取引先の経営破綻に連鎖する形で倒産に追い込まれたのです。同社が選んだのは、事業の主軸であるOEM商品を手放し、ほんの数パーセントしかない自社ブランドで再生を目指すという茨の道でした。それでも同社の考え方に賛同する多くの取引先やファンに支えられ、徐々に事業を立て直していきます。2007年にアートディレクターの佐藤可士和さんが今治タオルのブランディングを手がけ、その実力が世界からも認められる一大ブランド産業として復活したことも、大きな追い風になりました。
最大限の安全と最小限の環境負荷でテキスタイルを作るーー。苦境の中でも貫いたモノづくりへの信念、再生の物語、そして何より素晴らしい品質が多くの生活者の心をつかみ、IKEUCHI ORGANICは、再起を遂げただけでなく、ファクトリーブランドとして進化の道を歩み始めたのです。
作る人、使う人、そして、地球にも優しいサスティナブルなタオル
現在、IKEUCHI ORGANICが扱うのは、インドとタンザニアで栽培され、オーガニック・テキスタイルの世界基準GOTS認証をクリアしたスイスREMEI社のオーガニックコットンのみ。農薬や化学肥料を使っていないので、肌にいいことはもちろん、赤ちゃんが口にしたって大丈夫。今や世界中で使われている遺伝子組み換えの種子から生まれるコットンも使用していません。
使う人にとって安心、安全なだけではありません。一般的なコットンは途上国などで大量生産するため、収穫の邪魔になる綿花の葉を枯れ葉剤で除去して効率を上げているといいます。結果、地球環境に悪影響を与えるだけでなく、農家や地域で暮らす人たちの健康を害すことに。REMEI社のオーガニック栽培プロジェクトは、その負のスパイラルを断ち切り、さらに、フェアトレードによって貧困農村の人々の自立を支援することも目標としています。
地球環境、農家の人々、そして使う人、すべてに優しいサスティナブルなIKEUCHI ORGANICのオーガニックタオル。その考え方や姿勢が高く支持されていますが、選ばれる一番の理由は使い心地にある。実際に使ってみて、そう感じました。ふんわりとやわらかい肌触りが気持ち良く、水分を素早く吸収し、とても快適。しかし、中にはやわらかさよりもしっかりとした感触を好む人、吸水性よりも速乾性を求める人もいるでしょう。IKEUCHI ORGANICでは、糸の組み合わせやパイルの長さにによって「得意分野」の違うタオルを作っており、大きさや色違いを含めると、なんと商品数は400以上に上るのだとか。どんなシーンでどんなタオルを使いたいのかを考え、ぴったりの1枚を選ぶことができるのです。
また、使い続けるうちに実力を発揮するのも大きな特徴。何度洗濯してもへたったり色落ちしたりがほとんどなく、もちろん、機能的にも変わることはありません。定番の「オーガニック120」のバスタオルが4,200円と、タオルとしては少し高めの価格ですが、いつまでも快適に使い続けられることを考えたら、むしろコストパフォーマンスは高いと言えます。6月には最新作「オーガニック960」を発売。極細の3本の糸を緩く束ねることで、柔らかさとしなやかさ、ボリューム、そして、極上の肌触りを実現しています。
直営店では「タオルのテイスティング」も
IKEUCHI ORGANICのタオルはウェブサイトでも販売されていますが、機会があれば東京・表参道、京都、福岡にある直営店に足を運び、タオルの数々に触れてみて。店内にあるシンクで手を洗い、洗濯済みのすべての商品で拭いてみる、いわばタオルの「テイスティング」ができるので、好みの1枚がきっと見つかるはず。シンプルなデザインはギフトにも最適。自分で使ってみて品質に納得し、贈り物に使うというリピーターが多いというのも納得です。
毎日使うタオルだからこそ、意志を持って選びたい。
後編では、サスティナブルな考え方から生まれたコンセプチュアルで魅力的なタオルについてご紹介します。
■ IKEUCHI ORGANICに関する情報はこちら
ーーBackstage from “ethica”ーー
今回、訪問したのは、東京・表参道にあるIKEUCHI ORGANICの直営店。実際に使い心地を体験しながら、白衣に身を包んだショップスタッフの方に質問や相談ができるのはもちろん、なんと使い心地が悪くなったIKTのタオルの「再生工場」でもあるとか! 多くが柔軟剤の使いすぎが原因だそうで、店内でひときわ存在感を放つドイツ製洗濯機でパワフル洗い上げ、元の状態に戻すトライをしてくれます。「タオルのラボ」というショップのコンセプトにうなずきつつ、商品への揺るぎない自信と愛情を感じました。今回の取材をきっかけにわが家にやってきたまだまだ赤ちゃんのタオルが、これからどう成長し、熟成していくのか。静かにワクワクしながら洗濯機を回しています。
記者 中津海 麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp