今、世界中の9人に1人が飢餓状態に。その国や地域の子どもたちや母親は一体どんな状況に置かれ、どのような支援が行われているのでしょうか。東京・渋谷にある国連大学で6月24日、飢餓のない世界を目指す国連WFPの活動を視察した二人の大使による現地視察の報告会が開催され、300人近くが来場しました。
「自分の足で立っている」。その自信が笑顔を取り戻す
現在、世界ではおよそ73億人の人口のうち約8億人が飢餓に苦しんでいます。国連WFP(World Food Programme=国連世界食糧計画)は、飢餓のない世界を目指して活動する国連唯一の食糧支援機関。戦争や内戦、自然災害といった緊急事態には、必要な場所に食糧を配給し、被害にあった人々の命を救い、その後も、食糧を用いて地域社会の荒廃した生活の復興を助けています。2015年は、世界81カ国で約7700万人に食糧支援を行いました。
この日、最初に登壇したのはモデルで国連WFP日本大使の知花くららさん。知花さんは2007年から国連WFPをサポートしており、国連WFPが支援する国を毎年視察しています。今回訪れたのは、アフリカ南東部にある国マラウイ。国民一人当たりの所得が年間250ドル(2014年、世界銀行統計)で、世界最下位と、最貧国のひとつです。慢性的な貧困に加え、異常気象が食糧事情を悪化させています。昨年は大規模洪水が、今年は過去35年で最悪の干ばつが発生、農業が大きな打撃を受けています。
干ばつの被害を受けている村を訪れた知花さんが目にしたのは、広い畑に小さな豆がわずかに実っているだけの光景。その畑には灌漑設備がなく雨水に頼っているため、自然災害の影響が直撃していました。小さな子どもを6人抱え、その日食べるものにも困窮する農家の老女の暗い表情に心を痛めます。一方で、近くの村ではみずみずしい葉物野菜が実る畑が広がる様子にビックリ。そこは、モデルケースとして国連WFPの農業支援を受け灌漑設備を整えたことで、安定した収穫を確保することができていたのです。
「迎えてくれたお母さんたちが明るくエネルギーに溢れていて、圧倒されました。自分たちの手で耕した畑で作物を育て収穫し、その野菜は自分たちで食べるだけでなく、売って現金収入にもできる。自分たちの足で立っているという自信が笑顔につながっているんだと強く感じました」
知花さんは続けます。
「マラウイでは国民の4割が食糧難に苦しんでいる。今この瞬間も、それだけたくさんの人が食べるものがなくお腹をすかしているのです。でも、そんな中でも成功しているモデルケールもあることに希望を持つことができ、そこでは本来マラウィの人たちが持つ明るさや温かさに触れることができました。こうした取り組み、支援がどんどん広まっていってほしい」
お腹がいっぱいになる。だから、勉強への意欲がわく。
続いて、2010年から国連WFP協会親善大使を務める女優の竹下景子さんが、スリランカを視察した様子を報告しました。
インドの南東に位置する島国スリランカは、2009年まで26年間続いた内戦により、社会的、経済的に甚大な被害を受け、今も全人口の22%にあたる470万人近くが栄養不良の状態にあります。さらに干ばつや洪水といった自然災害が続き、特に低所得者が安定的に食べ物を手に入れ栄養を摂ることが難しい状態に。竹下さんが視察に訪れたときも過去25年で最悪の洪水や地滑りが発生した直後で、100人近くが命を落とし、28万人以上が被災。急遽予定を変更して、竹下さんは被災地にも足を運び、困っている人たちの声にも耳を傾けました。
続いて向かったのは、内戦で最も被害を受けたスリランカ北部。紛争後の国を初めて訪れた竹下さんは、その悲惨な爪痕を目の当たりにしたときの気持ちをこう語ります。
「戦争はすべてを奪う。それは命だけでない。今、故郷を捨ててなんとか生き延びた人たちがようやく戻ってきているのですが、地域は荒れ果て、家も仕事も培ってきたコミュニティもなくなってしまっている。全てを奪われ何もないところから始めるのはとても大変なこと。失われた26年という月日は、そう簡単には取り戻せないだろうと感じました」
そうした人々の生活を復興するための学校給食支援や母子栄養支援の現場にも、竹下さんは足を運びました。国連WFPでは、地域の復興支援として地産地消にも力を入れています。学校は、国連WFPが提供した米や豆、魚缶に加え、政府の補助金を利用して地元の農家から適正価格で買い取った野菜やフルーツを給食に取り入れているのです。それを美味しそうに頬張る子どもたちの生き生きとした笑顔に、「学校に行けば給食を食べられる。すると子どもたちは勉強に対して意欲的になる。1日1回でもお腹がいっぱいになることがいかに大事なことかを痛感しました」と竹下さん。さらに、現地の人たちが、生活は厳しいながらも国連WFPの支援を受け、ようやく戻れた故郷で前に進もうとしている姿に触れ、こう語りました。
「支援というと緊急支援を思い浮かべがちですが、スリランカのように疲弊した国を復興するためには長期的な支援が必要。支援する側である私たちも、目標とモチベーションを持って支援を続けていくことが重要だと思いました」
後編につづく。
記者 中津海 麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
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