「茶ッカソン」の仕掛人に聞く 日本茶が生んだコミュニケーションとアイディア 【編集長対談】 伊藤園・角野賢一さん(前編)
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「茶ッカソン」の仕掛人に聞く 日本茶が生んだコミュニケーションとアイディア

「SHIBUYA NIGHT MAP」完成披露記者会見。左から、角野賢一さん(伊藤園)、植野有砂さん(渋谷区観光大使ナイトアンバサダー)、Zeebraさん(同左)、金山淳吾さん(渋谷区観光協会理事長)

2017年6月、渋谷駅前の「青ガエル観光案内所」に、渋谷のナイトスポットに焦点を当てた観光マップが設置されました。東急電車の旧車両を使用したこの案内所の目と鼻の先には、今や世界的観光名所となった渋谷のスクランブル交差点とハチ公。しかし多くの観光客にとって、渋谷は観光地を巡る「通過点」でしかなく、滞在は駅前広場のほんの数分だと言います。

そこで、観光客にもっと渋谷の街を楽しんでもらうためのプロジェクトによって制作されたのが「SHIBUYA NIGHT MAP」です。渋谷の夜の魅力を紹介するこの観光マップのアイディアは、「茶ッカソン」というユニークなアイデアソンから生まれたものでした。「茶ッカソン」の仕掛人、伊藤園の角野賢一さんをethica編集部が取材しました。

「茶ッカソン」の仕掛け人である角野賢一さん。渋谷区の伊藤園本社にて。 Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

学生たちとアイディアを出し合い制作した、インバウンド向けSHIBUYAマップ

大谷: はじめまして。ethica編集長の大谷と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

先日発表された「SHIBUYA NIGHT MAP」は、角野さんが実行委員を務めていらっしゃる「茶ッカソン」というアイデアソンから生まれた観光マップとのことですね。制作には、渋谷区観光協会、実践女子大学や國學院大学の学生さんたちも関わっているとか。過去の「茶ッカソン」のレポートを拝見しましたが、参加者全員でお茶を飲んだり、座禅を組んだり、日本の伝統文化を取り入れながら、新しいアイディアを生み出そうという、とてもユニークな活動だと思いました。

まずは「SHIBUYA NIGHT MAP」制作の経緯をうかがえますでしょうか。

「SHIBUYA NIGHT MAP」を手に、制作の経緯を語る角野さん。 Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

角野: 実践女子大学の松下慶太准教授が「茶ッカソン」の活動に興味を持ってくださり、昨年6月に声をかけていただいたのがそもそものきっかけでした。松下先生は、渋谷を中心としたまちづくりに関する調査・研究などを行っていらっしゃって、東急電鉄の方々とも交流があったんです。そこで、実践女子大、東急電鉄、伊藤園の三者で話し合った結果、渋谷の街が抱えるインバウンドの課題が浮かび上がってきまして、渋谷に来る観光客に渋谷の街をもっと楽しんでもらうためにはどうしたら良いかを、今年1月の「茶ッカソンin SHIBUYA」のテーマにしたんです。

そこで優勝チームが打ち出した「渋谷の夜の時間帯を観光資源ととらえる」というコンセプトを、渋谷区観光協会の新しい観光マップに採用しました。マップの制作には、國學院大学の学生さんたちにも加わっていただき、外国人の方へのアンケートなどをもとに完成したのが、「SHIBUYA NIGHT MAP」(日本語版・英語版の2種)です。

大谷: ヒップホップ・アクティビストのZeebraさんやトランジットの中村社長などがマップの監修をされていらっしゃるんですね。7つのカテゴリに分けられていて、見やすいですね。

ヒップホップ・アクティビストのZeebraさん。

トランジットジェネラルオフィス代表取締役の中村貞裕さん。

シリコンバレーでスタートした「茶ッカソン」4年目の拡がりと成果

角野: 世の中には、いろんなハッカソンやアイデアソンがありますが、そこで出て来たアイディアが実際に形になって、社会に何らかの貢献をしたケースというのは、ごく限られていると思います。「茶ッカソン」は日本と海外とで過去に十数回開催して来ましたが、やはりアウトプットまではなかなか出来ずにいました。今回「茶ッカソン」で生まれたアイディアが、観光マップという一つの具体的な形になったのは一つの大きな成果だと思います。

角野さんがサンフランシスコの営業時代にスタートした「茶ッカソン」。記念すべき第1回の開催場所はEvernoteの本社だった。 Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

大谷: 「茶ッカソン」は、角野さんがサンフランシスコの営業のご担当だった頃にアメリカのシリコンバレーでスタートしたそうですね。参加者の年齢層や男女比はどのようなものなのでしょうか。どうやって参加者を募集されていらっしゃるんですか?

角野: スタートした頃は、若い男性エンジニアが多かったですが、最近の「茶ッカソン」の参加者は、10代から30代後半くらいまで幅広く、男女比も半々くらいです。中には 50代の方も参加されていますが。現在、開催の告知や参加受付は、主にPeatix(ピーティックス)を利用しているのですが、おかげさまで最近は40名程度の募集に対して100名以上の応募があり、毎回抽選になっています。

「茶ッカソン」4年目のスタートを記念して開催された「茶ッカソンSOU・ANのつどい~3周年記念!茶ッカソン参加者大集合ミートアップ!」の様子。

参加した高校生が進路変更、人をインスパイアする魅力的なゲスト

大谷: 各回、テーマに合わせてゲストをお呼びしているそうですが?

角野: ゲストには、人をインスパイアできるパワーを持った方をお招きしています。その回のテーマに沿った知識を持っていることも重要ですが、それ以上に、感性が豊かで、その人の話を聞くとワクワクして、自分にも何かできるんじゃないかと思えてくる、そんな人をお呼びして、話をしていただいています。

1畳あたりに「お~いお茶」のペットボトル(500ml)約600本分の茶殻を使用した「さらり畳」の上でくつろぎながら話す「茶ッカソン」参加者たち。

「茶ッカソン」に参加した学生たちの中には、新たなアイデアソンを起ち上げたメンバーも。

大谷: これまで、どんなテーマでどんな方がお話をされたんですか?

角野: たとえば昨年の夏、高校生を対象とした「放課後茶ッカソン」というものを実施しました。高校生たちに「自分にとってのクールアンテナを持ってもらいたい」という思いがありまして、ラクガキで創造性のつながりを世界に生み出すタムラカイさん(ラクガキコーチ)、ファッションデザイナーの中里周子さんや、BAKEのオウンドメディアを立ち上げた阿座上陽平さんをお迎えしました。高校生たちにとって、とても刺激になったようで、中にはこの「茶ッカソン」をきっかけに進路変更した人がいたそうなんです。

インプットゲストの一人、尺八奏者の工藤煉山さんは「茶ッカソン」のテーマ曲を作曲。

東京急行電鉄都市創造本部の貴島邦彦さん。

「これって素敵でしょ」と胸を張って言えることでないと続かない

「営業の人たちが『うちの会社って、こんな素敵なことをしてるんです』と言えるかどうかは、何かを実行するときの判断基準の一つですね」 Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

大谷: 「茶ッカソン」では、当初から地域社会の問題に取り組んでこられたのですか?

角野: いえ、最初の数回は違って「無糖飲料の需要をどのように拡大するか」といったような、自社商品の販促に結びつく課題を扱っていたんです。でも途中から、なんか違うな、と。「お茶とご飯を用意しますから、僕らの悩みを考えてください」というのはクールじゃないというか、続かないと思ったんです。

それよりも「僕らは『茶ッカソン』を開催し、お茶を通じた最高のコミュニケーションの場を皆さんに提供します。そこで皆さんが抱えている問題や、普段から疑問に思っていることについて、みんなで考えましょう」と。そうして良いアイディアが生まれる場所に、いつも伊藤園のお茶がある。その方が、メッセージ性があると思ったんです。「これって素敵でしょ」って、誰かに教えたくなる、伝えたくなる、そういうことをやりたいと思いました。

競合はGoogle!?シリコンバレーで学んだ世界的視野

大谷: アメリカにいらっしゃって、日本よりも先進的なソーシャルインパクトの事例に身近に触れる機会が多かったことも、地域社会の課題にコミットした「茶ッカソン」のスタイルの要因なのでは?

角野: 僕がシリコンバレーでの営業時代に出会った人々は、コラボレーションやオープンイノベーションといったことに非常に積極的でした。そこで、これから伊藤園が注目していかねばならないのは、同業他社の動向だけではなくて、もしかしたらAmazonやGoogleといった企業の考え方なのではないかと思ったんです。

彼らは世界中に広告できるプラットフォームと流通網を持っていますから、もし優秀なベンチャー企業が彼らと組んで、本当に美味しくて健康に良い新しいドリンクを開発してしまったら、瞬時に世界中を席巻できる可能性を持っています。僕らはもっと、こんなイノベーションのつくり方があるんだとか、こんな顧客の楽しませ方があるんだ、ということを広い視野で学ばないといけないんじゃないかと思いました。

大谷: なるほど。引き続き「茶ッカソン」のコンセプトや、これまでの成果、今後の展開についてうかがっていきたいと思います。

(後編につづく)

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2023年までに、5つの強みを持った会社運営と、その5人の社長をハンズオンする事を目標に日々奮闘中。

角野 賢一

株式会社伊藤園 広告宣伝部。2001年大学卒業後、株式会社伊藤園に入社。4年間のルートセールスを経て2005年に米・ニューヨークにて海外研修を受ける。2008年ITO EN(North America)INC.に異動。シリコンバレーにてIT企業のカフェテリアを取引先にするなど、新たな流通網を切り開く。2014年帰国。広告宣伝部にて、シリコンバレーで立ち上げた茶ッカソンを日本で展開している。

記者:松崎 未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

<エシカ記事予告> 感性とロジックを掛け合わせるアイデアソン「茶ッカソン」が世界を変える
【編集長対談】 伊藤園・角野賢一さん(後編)

「茶ッカソンの参加者から『茶ッカソンに参加してから、伊藤園の商品を買うようになった』というような話を聞くんです」。 Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

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