回り道してたどり着いた、アジア人初のバリスタ世界一 【井崎英典・前編】 【編集長対談】 第15代ワールドバリスタチャンピオン 井崎英典さん・前編
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回り道してたどり着いた、アジア人初のバリスタ世界一 【井崎英典・前編】

バリスタの世界大会にてアジア人初のチャンピオンに輝いた井崎英典さん。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

サードウェーブと言われる昨今のコーヒーブームは、コーヒーの質の向上と喫茶文化の多様化を促しました。様々なシチュエーションで気軽に美味しいコーヒーが飲めるようになった今日、サラヤから、コーヒーを最後まで美味しく飲むための画期的なプロダクト「ラカント バリスタセレクト」が発売されました。この開発に携わったのは、世界中のバリスタたちが集うワールドバリスタチャンピオンシップで、2014年度、アジア人初の世界チャンピオンに輝いた井崎英典(いざき・ひでのり)さん。昨年独立し、コーヒーエヴァンジェリストとして、世界各国で活躍する井崎さんに、ethica編集長の大谷ロングインタビュー。前後編でお届けします。(取材協力:猿田彦珈琲 調布焙煎ホール)

「『そんなにエネルギーあるんだったら部活やりなさい』って先生に言われてバトミントンやり出したんですけど、楽しくなっちゃって」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

寡黙な親父の一言 「お前、人生どうしたいんや」

大谷: こんにちは。ethica編集長の大谷と申します。本日はよろしくお願いいたします。

井崎: よろしくお願いします。

大谷: まずは、井崎さんの生い立ちからうかがえますでしょうか。

井崎: 僕、福岡の南区っていう田舎の出身なんですよ。ラグビーの五郎丸さんの家が近所で、五郎丸さんの妹が同級生でした。

大谷: そうなんですか! コーヒーに出会う前は、どんな少年だったんですか?

井崎: コーヒーに出会う前って……何してたんですかねぇ(笑)。中学校のときは、もうエネルギーが有り余ってて、先生に勧められて、バトミントン部に入ったんですよ。最初イヤイヤだったんですけれど、結局そのバトミントンで高校に入学して。

大谷: 推薦入学ってことですか?

井崎: 体育科にスポーツ特待生で。そこが誰も勉強しない高校で、自分もみんなと夜まで遊んで、朝まで遊んで。でも、当時下宿していたところが使えなくなったり、「学校なんてやめてやるのがかっこいい」みたいな雰囲気もあって、結局、一年くらい通って辞めちゃったんです。

高校を辞めて、しばらく道路工事だったり、なんでも屋だったり、日雇いの仕事をしながらブラブラしてたんですけれど、ある日、親父が僕に「お前、人生どうしたいんや」って言ったんですよ。僕の親父、本当にふだん何も言わないんです。高校やめるときも「あっそう」みたいな感じだったんですけれど。親父にそう聞かれて「自分もわからん」って答えたら、「じゃあ、お前うちで働けや」って話になって。それで、親父のやってたコーヒー屋(ハニー珈琲)で働き出したのが、16歳くらいでした。

大谷: へー、面白いですね。でも、お父さんがコーヒー屋さんをやってらっしゃって、そこですぐに修行できたというのは、幸運でしたね。

井崎: ラッキーでしたよ。僕も社会不適合者ですけど、親父は筋金入りの社会不適合者で(笑)。うちの家系は会社員できない人ばっかりで、みんな経営者タイプなんですよ。

それまでほとんど干渉することのなかった父親から将来を問われたことが転機となった。「自分のケツは自分で拭け、みたいな親父でしたね」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

人生を豊かにする回り道

大谷: そこから、何年修行されたんですか?

井崎: いや、今も修行中だと思ってますけど。親父の会社にいたのは二、三年ですね。それから僕、もう一度高校に行き直したんです。

大谷: 地元の高校ですか?

井崎: はい、いわゆる大検(※ 現在の高卒認定)で。コーヒー業界って、すごくインターナショナルな業界なんですよね。コーヒー一杯で世界の人たちと繋がることができる。いろんな人と会うようになって、英語ができないと仕事にならないってことがわかったんです。それから経済のことも。勉強しないとやばいな、と(笑)。

大谷: なるほど。でも、社会人になってからの勉強って、身になると思います。僕なんかも、学生の頃に授業で習ったり教科書を読んだことって、あんまり面白くなくて。一度社会に出て、なんらかの実体験があった上で、本を読むとか、経済の話を聞くとか、そういう方がすんなり頭に入ってきますよね。

井崎: いや、良かったんですよ、その大検がすごく面白くて。生徒は、働いてる人か、本当に事情があって学校に行けなかった人か、おじいちゃんおばあちゃんなんです。

大谷: じゃあ、そこでまた社会勉強になりますね。

井崎: めちゃくちゃ社会勉強になりましたよ。だって、履修のために、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒にバレーボールとかするんですよ、引きこもりやヤンキーが(笑)。それぞれ立場が違ういろんな人たちと話して。それで、おじいちゃん、おばあちゃんからは「私は勉強したくてもできなかったから、早く高校に行き直せて良かったね」って言われるんです。戦争を経験してる世代の方々でしたね。

年齢も立場も様々な人たちと交流できた大検での日々。「バレーボールなんかもやらなきゃいけなくて。引きこもりもヤンキーも、おじいちゃん、おばあちゃんとみんなでトスを上げて(笑)」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: 社会人になってから勉強やり直すのも、一つの勝ちパターンかもしれないですね。

井崎: 勝ちパターン? いや、ちゃんと勉強するに越したことはないと思いますけど(笑)。

大谷: 普通に学校に行っていると、同世代の横のつながりはずっと続きますけど、縦のつながりってなかなかできないですよね。現代は特に核家族化が進んで、地域のつきあいみたいなものも減ってますし、若い世代は年代の違う人とのコミュニケーションが苦手になってきてると思います。BtoCでも、BtoBでも、仕事上の付き合いは世代をまたぐので、そういうコミュニティに入った経験は、ポイントだったと思います。

井崎: うんまあ、僕は回り道した方が良いと思ってるので。いま、いかにスマートに目的地にたどり着けるか、みたいなことをみんな一生懸命やってるように思うんですけれど、それってつまらないじゃないですか。

大谷: そうですね。それに、若いときに挫折を経験しないで大人になると……

井崎: 結構、応えますよね(笑)。はい、だから、結果的にいい経験させていただいたと思ってます。

「ありがたい経験でした。勢いで高校辞めてしまいましたけど、結果として良かったかな、と(笑)」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

世界一の「バリスタ」を目指す

大谷: そこから、バリスタの大会には、どのような経緯で出場することになったんでしょうか。

井崎: 親父の店で働き出した当時は「バリスタ」と言っても誰も知らなかったですよね。親父の店で、掃除したり重い荷物を運んだり、丁稚奉公みたいなことをやってるうちに「バリスタ」という仕事があるらしいということを知って。なんか響きがかっこいいじゃないですか(笑)。それでバリスタを目指したんです。短絡的ですけど。

大谷: そこから、どういうステップを踏んで世界チャンピオンになられたんでしょう? チャンピオンになられたのは2014年でしたね?

井崎: 世界大会に出場するには、まず国内予選を勝ち残らないといけません。ワールドバリスタチャンピオンシップは、各国の優勝者一人ずつが参加する形式なんです。当時日本では160人くらい出場者がいて、その中で一位にならないと世界大会には出られませんでした。

大谷: 当然、その160人の中に、大手のコーヒー屋さんや、有名なホテル・レストランで働いていらっしゃる方もいらっしゃったわけですよね? その中で、井崎さんは、お父さんのお店、独立系のコーヒー店から出場された。

井崎: ええ。それで国内大会に初出場で7位になって、これは本当に楽しいなって思ったんです。そこから毎年出場して、2012年に国内で優勝して、メルボルンで開かれた2013年度の世界大会に出場したんです。でも初出場の年は、完璧に雰囲気に呑まれちゃって。世界中の一流のバリスタと同じステージに立ったとき、自分の知識不足や経験不足をまじまじと見せつけられました。

初めて出場した世界大会(2013年度)はオーストラリアのメルボルンで開催された。「世界の著名なバリスタたちが、自分と同じステージに立って競技のための準備をしているのを見て、雰囲気に呑まれちゃいました」井崎(談)

大谷: ちなみに英語の方は?

井崎: 大検の後にイギリスの大学にも通ったんです。だから英語はなんとか。今からすると全然できてませんでしたが。

大谷: 英会話って、語学レベルだけではないですからね。体全体でのコミュニケーションなので。井崎さんは、もともとスポーツマンだったからというのも大きいのでしょうけれど、声も良いですし、世界のステージに立っても遜色なかったんでしょうね。

井崎: ありがとうございます。そうですね、僕はコミュニケーションって言語だけで成り立つものではないと思っているので。大事なのはどういう風にコミュニケーションをとるか、ですね。

大谷: 引き続き、「ラカント バリスタセレクト」の開発や今後のコーヒー業界の動向について、お話をうかがっていきたいと思います。

(後編につづく)

<エシカ記事予告> バリスタ世界チャンピオンの目標は「コーヒーで世界平和」

張りのある声で、気取らず快活に話す井崎さん。バリスタ世界一への道のりを、笑いを交えて振り返り、その場の雰囲気をすっかり打ち解けたものにしてくれた。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

バリスタ世界チャンピオンの目標は「コーヒーで世界平和」 【井崎英典・後編】

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2023年までに、5つの強みを持った会社運営と、その5人の社長をハンズオンする事を目標に日々奮闘中。

井崎 英典(いざき・ひでのり)

福岡県出身、1990年生まれ。高校中退後、父が経営するコーヒー屋を手伝いながらバリスタに。法政大学への入学を機に、丸山珈琲に入社。2012年史上最年少でジャパンバリスタチャンピオシップ優勝、2連覇達成後、2014年ワールドバリスタチャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンに。現在はコンサルタントとして年間200日以上を海外で過ごし、コーヒーエヴァンジェリストとして、国内でも製品開発やコラボレーションを行う。井崎 英典 公式サイトはこちら( http://hidenori-izaki.com )

記者:松崎 未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

ーーBackstage from “ethica”ーー

カロリーゼロの甘味料「ラカント」シリーズに、コーヒー専用の新商品が登場したということで、早速自分も「ラカント バリスタセレクト」を試させていただきました! 基本的にふだんコーヒーはブラックで飲むんでいるので、少量ずつ入れていったのですが、無糖派の私にもほどよい甘さ。カロリーゼロですし、味のコントロールがしやすくなるので、コーヒーをたくさん飲むという方には特にオススメです! インタビュー後半では、この「ラカント バリスタセレクトの開発に携わった井崎さんの想いをうかがいます。

関連映像(関連キーワードでYoutubeから抜粋)

提供:サラヤ株式会社

http://www.saraya.com

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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