4月19日より、渋谷スペイン坂にあるGALLERY X BY PARCOにて、女優やミュージシャンとして活躍する創作あーちすと’のん’さんの個展「’のん’ひとり展 -女の子は牙をむく-」が始まりました。会場には、’のん’さんがこれまでに描いたイラストやペインティングの他、今回の展覧会タイトル「女の子は牙をむく」のコンセプトに沿って制作された衣裳やインスタレーション作品が並んでいます。ethica編集部が内覧会にうかがい、のんさんにお話をうかがいました。
「自分が面白いんじゃないかと思う物を全部つめこんだ」展覧会
牙をむいた口の形をしたゲートをくぐると、細長いギャラリーには一本の道路が走っています。その真ん中には、俵型のモンスター(?)の大きなぬいぐるみが。このモフモフの通せん坊を越えた先には、壁いっぱいに、牙をむきだした女の子の大きな顔。
マネキンはお姫様のドレスのような大量のフリルの山に埋もれ、工事現場にでもありそうな極太のワイヤーには赤いハイヒールがぶら下がり、天井を見上げれば、ピーターパンの物語に出てきそうな衣裳が空を飛び回っています。まるで手作りパーティーのようなワクワク感があって、会場全体が楽しげで賑やか!
「女の子は牙をむく」という展覧会タイトルには、’のん’さんの「女の子のはちきれるエネルギーを表現できたら」という思いが込められているのだとか。’のん’さん自身「女の子の凶暴さや無鉄砲なパワーが好きで、見ているとやる気に満ちてくる」と言います。
更に詳しくお話をうかがうと、どうやらこの「牙」は、特定の相手に対する威嚇や攻撃のためというより、見境なく何にでも食らいついていくバイタリティや貪欲さの象徴だということがわかってきました。なるほど、天真爛漫な女の子のポジティブなパワーが会場中に溢れています。
あれもこれもぜんぶ含めて、創作あーちすと’のん’
私たちはつい、「女優の’のん’さんは、絵も描くんだ」という印象を持ってしまいますが、’のん’さんは女優業も「創作あーちすと」の表現活動の一環なのだと言います。
今回’のん’さんは、自分の絵画作品の中の登場人物に扮してみたり、インスタレーション作品と戯れたり、一種のパフォーマンスアートの形で自らの作品の解題にも挑戦しました。またそれを写真で記録した公式図録『女の子は牙をむく』(PARCO出版)は、’のん’さんがつくった一篇の詩を基軸に編集され、より強いメッセージを紡ぎ出す作品になっています。
さらに、この展覧会の会期の最終日(8日)には、クロージングイベントとして、渋谷クラブクアトロにて’のん’さん率いるガールズバンド「のんシガレッツ」のファースト・ライブも予定されています。ライブの翌日には、’のん’さんのファーストアルバムCD「スーパーヒーローズ」も発売予定で、CDの制作に携わった大物アーティストが8日のライブにゲストで登場。
あーちすと’のん’の表現活動は、このGALLERY Xの会場に収まりきらず、会期中にもどんどん膨れあがっていくようです。女の子の複雑さや、欲張りな器用さが、このマルチメディアな展覧会に、象徴的に表れているように思いました。
あらゆる可能性の種子に眼を向けること
‘のん’さんの出演するテレビドラマや映画を観てきた私たち視聴者は、’のん’さんに過去の役柄のイメージを重ねてしまいがちです。いや有名人に限らず、身近な人に対しても、自分にとってわかりやすい相手の一面性を以て、相手を理解した気持ちになったり、役割を押しつけていることが、往々にしてあるように思います。展示作品たちは「ここにある様々な要素は、すべて’のん’というひとりの女の子の中にあるものなんだよ、どれも素敵でしょ?」と語りかけてくるようです。優しい色も悲しい色も、真っ直ぐな線も、とぼけた形も。人間は誰しも、いろんな可能性の種子を持っている。どんな自分でも良い。私は、そんなエールをもらったように思いました。
大勢の人たちとつくりあげた「ひとり展」
報道陣の取材に際し、展覧会の感想を求められた’のん’さんは、大勢のスタッフとアイディアをどのように具現化していくか話し合い、試行錯誤しながら展覧会をつくりあげた楽しさを語っていました。’のん’さんの場合、創作意欲は、音楽やアート作品に触れたときに、共感や対抗意識から生まれてくるのだそうで、今回の展覧会の来場者にも「『私も何かやりたいな』って思ってもらえたら」と話しました。
最後に、’のん’さんにethicaのコンセプト「私に良くて、世界にイイ。」をお伝えし、’のん’さんにとっての「私に良くて、世界にイイ。」をうかがいました。
素直に「好き」と言える、他人の目を怖れず挑戦する
のん: 私自身もそうですが、なにかについての知識や経験が少ないからといって、それが「好き」ってことが言えなかったり、「他人からどう思われるんだろう」と考えてしまったり、「そこまで好きではないのじゃないか」と自信を持てなかったりすることが、誰にでもあると思うんです。でも、みんなが好きなものを「好き」って素直に言えれば一番良いなと思っています。
自分がやりたいと思ったことは、とりあえずやってみて良いんじゃないかと思うんです。やりたいだけ、自由にやってみたら良いんじゃないか、って。だから、この展覧会には、自分がやりたい色んなことをいっぱい詰め込みました。
そこに共感してくれる人も、たくさんいるんじゃないでしょうか。私の”あーちすと”としての活動が、たくさんの人に『自分も何かやりたい』『自分にも何かできるかもしれない』って思える力を与えられたら、そんな風に思っています。
‘のん’さん、貴重なお時間をありがとうございました。’のん’さん、の活動は、きっと多くの方の背中を後押ししてくれると思います。
‘のん‘ひとり展 –女の子は牙をむく–
会 期:2018年4月19日(木)~5月8日(火) ※会期中無休
会 場:GALLERY X BY PARCO (東京都渋谷区宇田川町13-17 スペイン坂路面)
時 間:11:00~20:00
入場料:500円(おみくじ付)
主 催:パルコ
記者:松崎 未來
東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。
ーーBackstage from “ethica”ーー
今回の取材のきっかけをつくってくださったのは、写真家の平間至さんでした。より厳密には、平間さんが勝浦土産に持ち帰られた巨大なマグロでした(笑)。そのマグロの解体を興味津々で見ている’のん’さんの様子が、本当にポジティブなパワーに満ちていて、彼女の創作するものをぜひ見てみたいと思いました。実は、今回の展示作品の中に、あの日みんなのお腹におさまったマグロが描かれている作品があります。会場でぜひ探してみてください。オーブンで焼いたカマは絶品でした。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp