創業当初の理念をふたたび コストと環境負荷を抑えて顧客価値を再認識
クオーツとプリンターの開発で培ってきた創造と挑戦の精神を以って、企業として順調に成長を遂げてきたセイコーエプソン株式会社。90年代に売上規模は1兆円を超えるまでに。しかし2000年以降、その成長に翳りが見え始めます。
碓井社長: 2000年代、私どもも(同業他社と同じように)、プリンター本体を安く売り、インクなどの消耗品で利益を回収するビジネスモデルを採用しました。また液晶ディスプレイの事業についても、多くのコンペティターに勝つことを優先したあまり、「お客様の期待に誠実に向き合い、その期待に応える」という創業からの姿勢を見失っていたのです。その結果が、業績の大きな低迷につながりました。
「これではいけない。」碓井社長が社長に就任した2008年、同社は企業としての大きな岐路にあったと言えるでしょう。
碓井社長は、プリンターの黎明期とも言える1979年に信州精器株式会社(現、セイコーエプソン株式会社)に入社後、長らく同社でプリンターの開発に携わってきました。日本のインクジェットプリンターの来し方行く末を見据えてきたエンジニア社長が下した大きな決断が、プリンター事業におけるインクカートリッジモデルからの決別、そして液晶プロジェクターの開発強化でした。
碓井社長: やはり、社会に貢献し、地球環境とともに歩める会社にならなければならない、と感じたのです。プリンターというものは、お客様にコストや環境への影響を気にせずに印刷をしていただけるものでなければなりません。そのために、従来のインクカートリッジモデルをやめ、大容量インクタンクモデルに切り替えました。そうすることで印刷のコストは1/10以下になります。「これで勝負をしよう」と。そしてまた液晶の事業も、他社との競争に明け暮れるのではなく、もっと小さな液晶パネルを使って、新しいプロジェクターをつくることにフォーカスしました。
「創造と挑戦」。私どもは、その言葉にこだわるあまり、他社との競争に奔走し、お客様が真に求めている価値を見失ってしまった時期がありました。しかし、そこに「世の中の期待に応え、真摯に努力する」という精神を融合させることで、新たな価値を生み出すことができると思っています。世界中の皆さんから「エプソンがあるから、私たちの生活は豊かだし、持続可能な社会が実現できるんだ」と言っていただけるような、社会にとって「なくてはならない会社」を目指したのです。
創業時の精神に立ち返った、この大きな方向転換が功を奏し、2012年からふたたび同社の利益は伸び始めました。