日本に”エシカル”という言葉を初めて紹介したNPO法人ソーシャルコンシェルジュ代表理事及びSHOKAYジャパンオフィス共同代表の林民子さん。被災地の自立支援として始めたSHOKAY for TOHOKU(ショーケイ・フォー・東北)など、エシカル第一人者である林さんにこれからの日本においてのエシカル・ムーブメントの展望などについて語って頂きました。
SHOKAY meets TOHOKU
東日本大震災から3年が過ぎました。
震災直後、自分たちの資源を活用した被災地支援を考えていた林さんは、避難所で編物がしたいおばあちゃんたちがいるというインターネットの呼びかけに応え、SHOKAY(ショーケイ)のヤクの毛糸を使った編み物ワークショップを避難所でスタートしました。
SHOKAYとは、チベット族から直接ヤクの毛を公正な価格で買い取ることで、彼らの伝統的なライフスタイルを守りながら継続的に現金収入を得られることを目的としているブランドです。また製造された毛糸は上海沖の崇明島(すうめいとう)に住む女性たちの手編みによって製品化されることで、彼女たちが子育てや介護をしながらに安定した雇用と収入を得ることを可能にしています。
SHOKAYはチベット語で「ヤクの最も柔らかい毛(ダウン)」という意味
ヤクとは中国西部、標高3,000メートル以上の高地に生息するウシ科の動物。古くからチベット族の生活の糧として大切にされてきました。SHOKAYはチベット語で「ヤクの最も柔らかい毛(ダウン)」という意味です。保温性が高く、モザイクのようなうねりがあるため、カシミアのようなスムーズでソフトな肌触りを楽しむことができます。
被災者の自立支援を目指していた林さん
避難所での編物は、被災者同士のコミュニケーションにつながったり、毛糸の優しい手ざわりが癒しをもたらしたりと、さまざまな効果を発揮しました。もともと被災者の自立支援を目指していた林さん。SHOKAY本来のビジネスともつながり、被災者の収入にも貢献するシステムの構築を実現させたかったそう。職も家も家財道具も失ったという環境の中で、被災した方々の自立につながればと、2011年7月に岩手県山田町の避難所からスタートした「SHOKAY for TOHOKU」は、仮設住宅へと移行していきました。SHOKAYの編み図と毛糸で手先の器用な東北の女性が編んだニットを商品として販売、売上金の一部を還元するという循環を生み出すこのプロジェクト。使用する毛糸はもともとチベット族の支援にもつながっているので、日本とチベットで協働するというハイブリッドなソーシャルビジネスの形が構築されたわけです。
SHOKAY for TOHOKUは震災2年後の去年、プロジェクトの中心だった山田町の仮設住宅の環境も変わり、仕事に就く人も増えたことから、一般社団法人日本編物文化協会の協力のもと、被災地4県(岩手、宮城、福島、茨城)にまたがったソーシャルビジネスとして新しいスタートを切りました。
“エシカル”との出逢い。
2007年にNPO法人ソーシャルコンシェルジュを立ち上げる前はファッションブランドのPRとして活躍していた林さん。社会貢献やエシカルな活動を始めたきっかけについて語ってもらいました。
「子供の頃から社会問題に関心があり、寄付やボランティアをしてきて、いずれ世の中のためになるような仕事をしたいと思っていました」と林さん。
もともとマスコミやファッションンブランドのPRをしていたので、その経験や知識を活かして、様々な社会貢献活動のPRやマーケティングを行うNPOを設立。当時、そのような団体はほとんどなかったので、社会貢献への多様な関わり方を提案できるのではと考えたそうです。
NPOソーシャルコンシェルジュ設立直前の2006年、ロンドンで開催された「“エシカル”消費がメインストリームになる」というテーマのエシカル・コンシューマー会議に参加。大いに共感し、帰国後、ファッション誌のインタビューやコラムで頻繁に使うようになったそうです。というのも、当時“エコ”や“ロハス”という言葉はすでに広く認知されていましたが、それらをすべて含む意味で、環境や社会に配慮したエシカルな商品を購入することが一番身近な社会貢献であり、それが大きな社会変化をもたらすのではないかと考えたからでした。
日本人の原点回帰が鍵。
“エシカル”という概念はまだまだ伸びしろがあるのでは、という質問に対して、「“エシカル”を仕掛けた気はしますが、実はエシカルという言葉にこだわっていないんです。常に人と自然をリスペクトする気持ちがあると自然にエシカルになっていくのだと思う。日本人はもともと持っている感覚なので、声高に「エシカル、エシカル」と言わなくても、原点に戻れば日々の行動に現れてくる。必然的にエシカルな世界になっていくはずだと信じています」と林さん。
「もともと日本の会社は社会のための企業として生まれた社会的企業が多かったはず。忘れてしまっていることをただ蘇らせるだけでいい」「エシカルなんて言う必要のない、それが当たり前の社会になってほしい」と語ってくれました。
本来のビジネスの在り方。
欧米でエシカル・ムーブメントが起きていた2007年、社会起業家やソーシャルビジネスの潮流もあり、エシカル同様に関心を持っていた林さんはハーバード大学のソーシャルエンタープライズカンフェレンスに参加。日本では、ビジネスと社会貢献は相反するものと思われていた頃、アメリカでは様々なソーシャルビジネスのアイデアで盛り上がっていたそうです。
林さんが2008年から日本代表を務めることになった「SHOKAY」は、まさにそのハーバードから生まれたソーシャルビジネス。創設者である香港人マリー・ソーと台湾人キャロル・チャウがハーバード・ケネディスクールで出会い、中国・上海を拠点に、青海省のチベット族、上海沖の離島の女性たちと共にモノづくりをしています。林さんがこのSHOKAYを日本で手掛けることにした理由は、SHOKAYには、従来のエシカルなブランドには無かったデザイン性、クオリティ、そしてストーリーの三拍子が揃っていたから。そして、もうひとつ、独立問題を抱える中国とチベットに、ビジネスを通して一つの“融和”の方法を指し示すものだと感じたからでした。
7年を経た今、林さんが感じる時代の変化としては、「ソーシャルビジネスの成功事例も増え、世の中の意識も変化してきました。社会の問題を解決することに配慮したソリューションマーケティングはもはやあたりまえ、もっと言えばその流れに乗っていない企業は生き残れない時代になってきています」。
よりよい循環のために。
自らを“エコオタク”と呼ぶ林さん。北海道で育った背景から、もともと森の循環や多様性の大切さ、意味があってすべてが成り立っているということを無意識に感じていたと言います。さらには化学物質に敏感だったこともあり、自然なもの、オーガニックなものはいつも身近に感じていたそうです。
「自然を愛する人は、すべてが循環しているということを無意識レベルで分かっているので、『お金が社会の血液』だということも分かっている。よりよいお金の循環を生み出すために、どういう物やサービスを選ぶべきか、賢い選択ができる賢い消費者で自分自身そう在りたいと思うし、そういう提案をしていきたい」と、語ってくれました。
さらなるチャンレンジ。
林さんが手掛けるプロジェクトは、NPOソーシャルコンシェルジュの活動、そしてSHOKAYだけではありません。2010年4月に表参道ヒルズに1年間の期間限定でスタートしたエシカルなセレクトショップ「Do Good, Be Happy!」が、2013年新たに、「DGBH」としてWebマガジンとWebショップの2本立てでリニューアルオープン。DGBHとは、「良いことをしながら、ハッピーに暮らそう!」という、林さんがNPO設立当初から発信してきたライフスタイルであり、メッセージ。さらに、タイ・チェンマイに建設予定のエコ・ビレッジのプロジェクトなど、エシカル第一人者林さんの今後の活躍にますます目が離せそうにありませんね。
林さんの興味関心の幅の広さもさることながら、行動力があったからこそ、今のエシカル・ムーブメントがある。そしてそこに横たわる想い。想いをカタチにするとは正にこういうことなのだ、ということを学ばせていただきました。ありがとうございました。
取材協力:林民子さん
NPO法人ソーシャルコンシェルジュ代表理事、SHOKAYジャパンオフィス共同代表
欧米ラグジュアリーブランドのPRを経て、2007年より、エシカルなライフスタイルを提案するプロジェクトのプロデュースや、企業CSR活動やNPOのPR&マーケィング・コンサルティングを行うNPO法人ソーシャル コンシェルジュを主宰。
Good Story, Good Design, Good Quality のバランスの良い、贈る側も、受け取る側も、そして生産者も、 “3方良し”の、みんながHappy になるギフトアイテムのショーケースであるセレクトショップ & 国内外のDoGood, BeHappy!な活動を紹介するウェブマガジン「DGBH」のプロデュース。
チベット族の宝であるヤクのニットブランド「SHOKAY (ショーケイ)」の日本代表も兼務。
<お問い合わせ>
SHOKAY(ショーケイ) www.shokay.jp
NPO法人ソーシャルコンシェルジュ www.socialconcierge.org
DGBH www.dgbh.jp/
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp