本記事は、あらゆる女性のエンパワーメントを目指し、モデルとして国際的に活躍する国木田彩良さんに、ファッションの歴史を紐解きながら、セクシャリティやジェンダーの問題について、フランクに語っていただく連載コラムの最終回(Epilogue)です。
言葉の壁を越えて
本連載「国木田彩良−It can be changed.」のスタートにあたり、最初にテーマとともに問題に挙がったのが、言語でした。国木田さんが、自分の意思をもっともストレートに伝えられるのは、母国語のフランス語。けれど、それが翻訳によって、自分の意図と異なる伝わり方をすることを危惧してもいました。そして最終的に「日本の読者に向けた発信は、日本語で」という結論に至ったのです。
初回の収録を開始してすぐ、私たち編集部は正直なところ、言語問題については国木田さんの杞憂だったのではと思ってしまいました。国木田さんの語彙力は、日本に移住して5年とは到底思えないほど豊富で、知性にあふれていました。それでも時折、国木田さんはもどかしそうに、英語を交えて何度も言葉を言い換え、捕捉をしながら、2時間ほぼノンストップで話し続けました。国木田さんの思慮深さ、そして、一途さ。私たちはそこに、日本人的な完璧主義と、欧米で培われた果敢なチャレンジ精神の双方の間で揺れるひとりの女性を見ました。
本連載は、最終的に5時間を超えるインタビュー収録を再構成しています。できうる限り丁寧に、国木田さんの言葉を拾っていったつもりですが、ときにウィットに富んだジョークを交えつつ、真剣な眼差しで私たちに語りかける国木田さんの気迫や熱量を、ここにお伝えしきれないことを歯がゆくも感じています。いずれまた、今回ご紹介できなかった国木田さんの思想を発信する場を設ける機会があることを、私たちは願ってやみません。
国木田彩良、今後のチャレンジ
最初に連載の企画が起ち上がってから、皆さまにご覧いただけるかたちにするまで、私たちethica編集部は、およそ一年をかけました。その間に、国木田さんにもまたさまざまな変化があったようですが、最近、取り組んでいることのひとつが、女性同士のネットワーキングとのことです。
「私はいま、男性がしていて、女性がしていないことに興味があるんです。男性たちは、集まって食事をしながら、ビジネスや政治経済のことについて話しますね。でも、女性同士が集まっても、そうした話題はほとんど出ません。それよりも、ファッションやボーイフレンドやゴシップに興味を持つように私たちは育ってきてしまっているからです。
そこで最近、EU大使の夫人や、Googleやゴールドマンサックスといった大企業で活躍している女性たちと集まって、食事しながらビジネスや政治の話をしているのですが、女性同士でも非常に有意義なディスカッションができています。社会には、女性が参画できる領域がまだまだあると感じます」
複数回の取材を通じてethica編集部が感じたのは、国木田さんの日常的な情報収集と、あらゆるものに対する問題意識でした。歴史に学び、最新の動向を分析し、物事の因果関係を読み解き、未来を考察する国木田さん。このように、自ら思考と議論の場をつくり上げているからこそ、力強い言葉が生まれてくるのでしょう。この女性同士のネットワーキングの先に、国木田さんはどのような目標を持っているのでしょうか。
「私たちが思い描いている夢——私は戦略なしのゴールを夢と呼びますが——は、女性だけで、もしくは女性主体で会社を起ち上げることです。企業で働く女性はどんどん増えていますが、世の中のほとんどの企業が、男性によってつくられた男性主体の会社です。男性のつくった仕組みの中で、女性たちは働いています。そしてそのために、多くの企業でハラスメントの問題があります。
女性も団結すれば、社会を変えていくことができるのだということを私たちが提示できれば、いま口を閉ざして辛い状況を耐え忍んでいる女性たちに『何も恐れることはない』というメッセージを伝えられるのではないかと思っているんです。
私は、女性たちが自ら意思決定できる安全な居場所をつくりたいのだと思います。
私は幸い、周りに優秀で自立した女性たちが大勢います。自分がすごく特別だとは思っていませんが、誰もがこのような恵まれた環境にいるわけではないでしょう。だからこそ、このような居場所を社会につくっていきたいんです」
読者へのメッセージ
最後に、国木田さんにこの連載の読者に向けたメッセージをいただきました。
「私のメッセージは、いたってシンプルです。一度きりの人生だから、人間であること、人間らしくあることを、もっと楽しんで! 自分のセクシャリティや、弱さや傷つきやすさを恥じる必要はまったくないです。本当に恥ずかしいのは、嘘をついたり、誰かを傷つけたり、追い詰めたりすること。私たちは迷いもするし、間違いもするけれど、それが人間だし、失敗を乗り越えて、未来に向かって変わっていけるのも、人間なんです。
私は落ち込んでいるとき、TEDのプレゼンテーションの動画を見て励まされることがあります。一度も会ったことのない、遠い国で活躍している人に、まるで恋人と食事したときくらい元気をもらえちゃうのがインターネットのすごさですよね。私が、この連載を通して発信したメッセージが、たった一人でもいいから、この世界のどこかにいる誰かを、勇気づけられたのなら嬉しいです」
「It can be changed. 未来は変えられる」。
国木田さんのこの言葉と熱い想いからスタートした本連載は、いかがでしたでしょうか。いくつかのキーワードは絞っていたものの、当初想定していた以上にテーマが多岐に渡ってしまい、割愛した部分も少なくありません。それでも国木田さんのメッセージは、最初から最後まで一貫していたと思います。この記事を読んでくださった方々の明日が、ほんの少しでも良い方向に変わったとしたら、私たち編集部も大変嬉しく思います。
国木田彩良/Saila Kunikida
1993年、イギリス・ロンドン生まれ。フランス・パリで育ち、高校卒業後に服飾の名門スタジオ・ベルソーでファッションの歴史、デザイン、マーケティングを学ぶ。日本人の母とイタリア人の父を持ち、明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたる。
自身のルーツである日本に興味を持ち2014年単身来日、モデル活動を開始。2015年、三越伊勢丹の企業広告「this is japan」のイメージビジュアルに登場し注目を集める。国内外のハイファッション誌を中心に活動の傍ら、パリで形成された感性と日本で暮らす中で見えてきたことを発信していこうとSDGsに携わりながら、主にフェミニズムに関するトークショーに参加したり文章書いたりするなど活動の幅を広げている。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp