モデルとして活躍しながら、社会貢献活動にも力を入れる冨永愛さん。世界を見てきた経験と、出産・子育ての経験から「自分ごと」として捉え、冨永さんならではの視点で広く発信している。それぞれの活動への思い、エシカルでサスティナブルなファッションに求められるものについて語る。
妊産婦や子どもたちの健康をサポートするジョイセフ
2005年に長男を出産。母となったことで、冨永さんの中には新たな関心、問題意識が生まれた。そして、活動の幅が広がる。その一つが、公益財団法人「JOICFP(ジョイセフ)」だ。
ジョイセフは、女性のいのちと健康を守る活動をする日本生まれの国際協力NGOで、冨永さんは2011年にアンバサダーに就任した。これまでアフリカのザンビアとタンザニアを訪問し、妊産婦や子どもたちの健康をサポートするジョイセフの活動をその目で見て、伝える役目を担ってきた。
タンザニアは東アフリカの中でも妊産婦の死亡率がワースト2位。24人に1人が妊娠や出産の際に命を落としている。(※2012年訪問当時)「医師や助産師の数が圧倒的に少なく、ほとんどの妊婦さんは自宅で出産したり、一人きりで産んだり。何より驚いたのは、劣悪な出産環境です」と冨永さん。自宅出産では土間で分娩せざるを得ず、清潔な医療器具はもちろんなく、へその緒を縛る糸とカミソリのみ。消毒もままならず、赤ちゃんを取り上げるのは知識のない妊婦の母親だったりと、リスクと隣り合わせの出産。日本では考えられない状況だ。
「タンザニアの女性たちにとって、お産は命がけなのです。ところが、避妊の知識も情報もなく、私が出会った女性は当時の私と同世代の32歳で、なんと8人目を身ごもっていました。彼女は子どもを生み、育てることに誇りを持っていましたが、家族が多いので生活は苦しい、とも。もう子どもは産みたくないのに産み続けなければならない女性もたくさんいました。毎年のように出産すれば母体には負担がかかるし、子どもに栄養も十分にいかないため、様々なリスクが高くなるのに」と、冨永さんは憂い、こう続ける。
「私たちが当たり前に享受してきた安心、安全な出産環境や教育が、ここにはない。何かしなければーー。タンザニアの現状を目の当たりにして、強くそう感じました」
ジョイセフでは、医療施設が遠く受診できない妊婦のためにマタニティーハウスや母子保険棟の建設を行うとともに、きちんとした情報を伝える教育にも力を注いでいる。
「私が現地で見て、聞いた現実、そして感じたことを、国内外に広く伝えていきたい」(冨永さん)
そして、自身が妊娠、出産、子育てをする中で、より気になるようになったのが「食」だ。
「私自身がきちんとした食事をしないと、妊娠中はもちろん授乳期の息子に影響が出る。成長する中でも安心、安全な食材を食べさせたい。自然と環境問題にも興味を持つようになり、食材はもちろん、たとえば洗剤を買うときにも、成分だけでなく、その商品がどのような環境や理念で作られているのかを意識して選ぶようになりました」
消費者庁エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー就任
さらに2019年には、消費者庁エシカルライフスタイルSDGsアンバサダーを任される。ジョイセフに携わる前に、子どもの健康や保健にまつわる「子供地球基金」や、フードロスについて活動するWFP(国連世界食糧計画)の顧問を務めた経験もある。今から10年前には、ラジオの企画で東南アジアのボルネオ島へ取材に。貴重な野生動物や植物が地球や人間にとって大切なこと、しかし、その豊かな自然環境が破壊されつつあることに大きな問題意識を感じたという。それらの活動でのリアルな経験や知見を活かし、ファッションを含めたエシカルなライフスタイルを通じてSDGsの重要性を広めるのがミッションだ。
トップモデルとして活躍してきた冨永さんは、ファッション業界に置けるSDGsの動きをどうとらえているのか。
「毎年新しいトレンドを仕掛け消費を促すファッションの世界は、ある意味、環境を壊し続けてきた業界でもあります。しかし、ようやく『エシカル』『サスティナブル』というワードがファッションにおいても重視されるようになり、SDGsが掲げる目標でもある環境、人権、ジェンダーなどに配慮したブランドが増えています。というか、もはやエシカルやサスティナブルな活動に取り組まないブランドは消費者から選ばれないし、生き残れない。そういう意識は、ファッションの世界で生きる人たちや企業の間にようやく定着してきたと思います」
1シーズンで着捨てることなく一生でも着続けられるクオリティーの洋服、ヴィーガンレザーやオーガニックコットンなど地球環境に優しい素材などを使うブランドは増えていて、冨永さんはそうしたファッションを自身が纏うことで、ファッション業界の理念やムーブメントを私たちに知らせてくれる。そして、その着こなしは美しさとエシカルやサスティナブルは共存できることを証明している。
「エシカルでサスティナブルであることは大前提として、でも、やっぱりファッションには夢がないと。その服を選ぶこと、そして着ることで夢が持てるファッションは、着る人の心を豊かにしてくれるものだから」
心の豊かさが本当の美しさをもたらすーー。それが冨永さんの美の流儀なのだ。
<撮影協力>
・フォトグラファー:ITARU HIRAMA
・スタイリスト:SOHEI YOSHIDA (SIGNO)
・メイク:Mio (SIGNO)
・協力:UNDER GROUND
・コーディネーション:TRANSMEDIA Co.,Ltd
<商品に関するお問い合わせ>
HiRAO INC [ヒラオインク]
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-11-11-608
03-5771-8809
冨永愛
17歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍。モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティなど様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。2019年秋、TBSドラマ日曜劇場「グランメゾン東京」では主要キャストとして抜擢、女優としても活躍。公益財団法人ジョイセフアンバサダー、エシカルライフスタイルSDGs アンバサダー(消費者庁)
初翻訳となる女の子を応援する絵本『女の子はなんでもできる!』(早川書房)が楽天ブックスで 1 位(外国の絵本部門2020年11月24日~11月25日)となり、絵本としては異例のスピードで重版が決まり、読みやすく、元気になる言葉は、子どもからも評判を得ている。原題は”Girls Can Do Anything”(文:キャリル・ハート 絵:アリー・パイ)
冨永愛さんによる読み聞かせ動画はこちらから https://youtu.be/bMJrWM-xpfw
文・中津海麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
構成・大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。
「冨永愛 美の法則」(ダイヤモンド社)概要
世界的トップモデル冨永愛のランウェイで学び得た「美しい人になる習慣」。究極の美肌術、ボディメイク、美しい歩き方、食べ方、仕事、セックス、美の哲学ほか、アジアを代表するスーパーモデルのビューティーライフ。20年間、パリコレをはじめ、世界最高の美の価値観に触れてきた著者だからこそ話せる「美の法則」。
詳しくはこちらから
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp