あちこちで目に、耳にするようになったSDGs。そのキーワードの一つが「多様性」だ。差別を無くし、誰もが自分らしく、幸せに生きることができる世界。翻れば、そうではない現実がある、ということ。アジア人モデルとして差別的な扱いを受けながらもトップの座を手にした冨永愛さんが考える「真の多様性の実現」とは?
多様性(ダイバーシティ)とSDGs
消費者庁からの要請を受け、2019年からエシカルライフスタイルSDGsアンバサダーとして活動する冨永さん。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の軸となるのが、「多様性(ダイバーシティ)」だ。多様性を重んじ、人種や民族、宗教、ジェンダーによる不平等や差別をなくすことが目標として掲げられている。
冨永さんが17歳で世界のコレクションにデビューした20年余り前は、ファッション業界にも差別が横行していたという。当時を冨永さんは自著でこう綴っている。
「『冨永愛は、デビューシーズンにすぐブレイクした』と言われたが、有頂天にはなれなかった。あの頃は、アジア人のモデルがまだ珍しい時代。現場では人種差別的な扱いを受けて悔しい思いをしていたからだ」
(『冨永愛 美の法則』から抜粋)
叩かれるほどに強さを増す鋼のように、冨永さんは苦い思いを糧に走り続け、アジア人初のスーパーモデルの地位を手にする。フロンティアとして切り開いてきた冨永さんは、ファッションの世界でも多様性が重視されるようになったことを「とてもいいこと」と語りつつも、こんなことを口にした。
「でも、すごく偽善的に感じることもある」
日本人どころかアジア人すら珍しかった中で、冨永さんがスーパーモデルの座につけた理由は、まごうことなくその「美しさ」と「存在感」だった。「希少性が高いこともあったとは思うけれど、世界のトップの中でアジア人の枠が一つあるかないかの中で、『アジア人のくせに』と言われながらも結果を残してきた自負がある。ドヤっ! てね」。そう言って笑い、現状をこう見る。
「確かに今はアジア人のモデルも増えたけれど、使いたくて起用しているのか、起用せざるを得ないのか。うがった見方かもしれないけれど、正直、アジア人に対する差別意識は根本的には変わっていないように感じるのです。多様性を重んじなければという『お題目』があるから、コレクションの中に2、3人はアジア人を入れておくか、ということならば、それは偽善でしかない」
私は、本物に触れ続けていきたい
SNSの影響力が大きくなるとともにブロガーやインスタグラマーなどの存在感が増し、今やモデルだけでなく、インフルエンサーもランウェイを闊歩する。そして、その様子を世界中の人がスマホで見ることができる。コロナ禍でリアルのショーが今までのように開催できない今、SNSや動画配信サービスを通じてファッションを楽しむシーンは、今後ますます広がって行くだろう。
「色々な見え方、見方、楽しみ方が増えることも、ある意味多様性です。その流れは否定しません」と冨永さん。そして、こう続ける。
「だからこそ『本物』が問われる。本物とは、見る者の心を動かす何かーー美しさ、受け継がれてきた伝統、誇りや使命感を持って作られたものーーだと思うのです。私は、本物に触れ続けていきたいし、本物のモデルを目指していきたい」
真の多様性が実現できているのか。その課題を抱えるのは、ファッションの世界に限ったことではない。政治やビジネス社会などでも同様のことが言えるだろう。冨永さんはこう語る。
「SDGsが掲げる目標を達成するためには、私たち一人ひとりが意識を持ち、できることに取り組むことが大事ですが、やはり企業など社会的に影響力のある組織が動くことが必須です。それも、単なる社会貢献ではなく、ビジネスとして取り組むことで目標の達成が可能になると期待しています」
モデルとして、SDGsを発信する立場として、「多様性」の現状や課題を見つめる冨永さん。最後に、母として感じていることを語ってくれた。それは、「日本の若い世代の多様性のリアル」。
「ファッションの世界ではジェンダーレスなモデルが活躍したり、ジェンダーフリーのファッションが定番となったり、そういう意味での多様性は実現していると思う。でも、高校生の息子の周りを見てみると、10年前、20年前の感覚と何も変わっていない。それが正直な感想です。改めて、必要なのは教育なのだと痛感しています」
これからの時代を担う若い世代へ。世界を見てきたからこそのバトンを、冨永さんはしなやかに、力強く、手渡そうとしている。
<撮影協力>
・フォトグラファー:ITARU HIRAMA
・スタイリスト:SOHEI YOSHIDA (SIGNO)
・メイク:Mio (SIGNO)
・協力:UNDER GROUND
・コーディネーション:TRANSMEDIA Co.,Ltd
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冨永愛
17歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍。モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティなど様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。2019年秋、TBSドラマ日曜劇場「グランメゾン東京」では主要キャストとして抜擢、女優としても活躍。公益財団法人ジョイセフアンバサダー、エシカルライフスタイルSDGs アンバサダー(消費者庁)
初翻訳となる女の子を応援する絵本『女の子はなんでもできる!』(早川書房)が楽天ブックスで 1 位(外国の絵本部門2020年11月24日~11月25日)となり、絵本としては異例のスピードで重版が決まり、読みやすく、元気になる言葉は、子どもからも評判を得ている。原題は”Girls Can Do Anything”(文:キャリル・ハート 絵:アリー・パイ)
冨永愛さんによる読み聞かせ動画はこちらから https://youtu.be/bMJrWM-xpfw
文・中津海麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
構成・大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。
「冨永愛 美の法則」(ダイヤモンド社)概要
世界的トップモデル冨永愛のランウェイで学び得た「美しい人になる習慣」。究極の美肌術、ボディメイク、美しい歩き方、食べ方、仕事、セックス、美の哲学ほか、アジアを代表するスーパーモデルのビューティーライフ。20年間、パリコレをはじめ、世界最高の美の価値観に触れてきた著者だからこそ話せる「美の法則」。
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私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp