現在、九州を中心に活動している陶芸家・古賀崇洋さんは作品の存在感を際立たせるために「反わびさび」という新しい概念を掲げ、器全体を大小のスタッズ(突起)で覆う派手でユニークなシリーズを展開、質素で静かなものをイメージする日本人の美意識「わびさび」とはかけ離れた作品を発表しています。
何か新しいことにチャレンジする企業や人は反骨心を持っている
大谷: 下剋上というと、反骨心のようなそんなイメージも込めているのでしょうか?
古賀: ええ、そうですね。何か新しいことにチャレンジする企業や人は反骨心を持っていると、そういうふうにずっと思っていましたね。
大谷: 内覧会での古賀さんのスピーチにもありましたが、そのような反骨心からスタッズの文化を取り入れていくことにつながっていくわけですか?
古賀: モノに内在する力とかオーラとかそういうところから入って、だんだんとスタッズに対する思いが強くなっていきました。辿っていくと、古代中国の青銅器からすでにスタッズのような装飾が施された歴史があります。つまり、祈りや内側からのエネルギーを可視化する際に人類は根源的な装飾美としてスタッズを用いていたという歴史的文脈を踏襲した上で僕は作品にスタッズを加飾しています。このスタッズの意味性や装飾性をを今後もまだまだ掘り下げていきたいですね。ここまで来たら徹底的に突き詰めていきたいと考えています。
大谷: ただ単にスタッズといっても、まだまだ奥が深いということですね。
人が生まれる前から自然界にはトゲがある
古賀: 今回の新作である招き猫のケースでいうと、トゲには魔除けという意味合いも込めています。招き猫は縁起物なので、これまで表現してきたスタッズがいい形で反映されていると思っています。
大谷: 植物とか自然界にもトゲって多いじゃないですか。もしかすると、人が生まれる前から自然界にはトゲがありますよね。
古賀: たしかにそうですね。宇宙の原理原則からトゲってたぶん存在するんでしょうね。
大谷: おそらく必要だったんでしょうね。
古賀: そういう歴史的な文化背景や宇宙の法則なども全部ひっくるめて、作品に込めていかなくてはと思っています。ですから、表面的に見たら、スタッズは単なるファッションの一部と見られるかもしれませんが、そうではありません。僕はぶれずにそこを突き詰めていきたいです。もうスタッズといったら古賀といわれるくらい(笑)徹底的にやりたいと思っています。
ストリートカルチャーというアプローチ
大谷: 今回の個展についてお話いただけますか?
古賀: まず会場についてですが、僕の作品にはストリートカルチャーが下地にありますし、そのカルチャーが生まれた場所って当然「ストリート」じゃないですか。RAYARD MIYASHITA PARKは、渋谷という若者の文化を発信する街にあるし、そこで、人・音楽・アートが交差するカルチャーハブステーションを掲げる「or」でやることに意味があるように思いました。それは、今まで文章でしか伝えられなかったコンセプトが、会場やイベントや展示全体を通してもっと違った形で伝えられるんじゃないかと考えています。陶芸の新しい可能性を秘めた展示会になったのではないかと思っています。
今までの陶芸の展示会は、ただ単にどーんと壺が置いてあって、キャプションで説明して、それで今の若者が反応するかといったら、本当に興味のあるごく一部の人しか反応しないですよ。
でも、僕がこういう形で新しい工芸の在り方を示して、それに新しいテクノロジーが加わればそんなことはないはずです。陶芸というのは縄文時代からあって1万年以上前からある媒体です。、時代が変わって人々のライフスタイルや社会も急激に変化しているのに、作品が変わらないというのは、不自然じゃないですか。
テクノロジーやファッション、音楽も時代と共に変わっていきますので、同時代性が反映された陶芸作品があってもいいはずです。僕自身新しい未来が見たいですし、、僕より下の世代の人にも興味を持ってもらいたい。若い担い手が育つことで業界も盛り上がりますし、日本の力にもなると信じています。僕が頑張って、その一端を担えればいいなと思っています。
大谷: つまり、いってみれば、それが古賀さんの将来の夢ということでしょうかね?
古賀: そうなりますね、格好つければ(笑)。本当は自分のためにやっているんですけどね(笑)。
でも、結果論として、未来の若者たちの気づきやきっかけになれば、それがロマンかなと思いますね。
丹青社さんとの取り組み
大谷: 話は戻りますが、今回の展示会ではICタッグを使って説明が見られるというのもいいですね。
古賀: そうなんですよ。焼き物の展示会で、あんなにデジタルというかテクノロジーが採り入れられているのは、おそらく初めての試みじゃないですかね。
大谷: 作品とのマッチングもありますよね。古賀さんのあの作品だからこそ新しさがピッタリ来るんでしょうね。
僕個人としては今回、丹青社さんとの取り組み、そこが興味深いなと思っていて、ブロックチェーンという技術を使って著作権の管理やロイヤリティーの配分はもちろん、そこにプラスして、作品のストーリーが入ってくるのは本当にすごいです。
僕が一番いいなあと思うのは、丹青社さんにとってもよくてアーティストさんにとってもいいことなのでしょうが、丹青社さんはもともとホテルや商業施設などいろいろな空間のデザインをしている会社です。そこがB-OWNDというプロジェクトを立ち上げたというのは、アーティストさんにとっては、単純にオンラインサイトに出品するだけではなくて、丹青社さんとつながることによって、丹青社さんが手がける新しいホテルや商業施設に作品を置かせてもらったり、そこで何かを表現する機会も得られることになります。つまり、そういう大きなチャンスが出てくるわけです。
古賀: 全く同感ですね。
大谷: さらに逆に、丹青社さんにとっては、もっとこんな感じにしたいといったホテルや商業施設の課題にさまざまなアーティストさんとつながることで、提案の幅が広がります。
古賀: そこは本当に強みだと思いますね。とても大きな案件もありますし、丹青社さんはグローバルに展開したいという構想もあります。もちろん、僕も一緒に世界に出る準備をしています。世界に打って出るのは昔に比べてハードルが高くないですしね。
私によくて、世界にイイ。
大谷: では、最後の質問です。「ethica」のコンセプトは「私によくて、世界にイイ。」ということなのですが、古賀さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」とはどういうことでしょうか?
古賀: 僕がやっている陶芸を含め、工芸家が売れることってすごくいいことで、売れる作家さんがどんどん増えていったらいいなと思っています。
なぜなら、工芸というのは地場にものすごく根付いているので、作家さんが売れればその地域全体が潤うからです。売れればと下の世代に続いていきますし、そこの文化も守られます。元をたどっていけば、産業としての各種原料屋さんや道具屋さんなど連鎖的にどんどんつながっていくはずだと思いますので、工芸家が売れることって日本の伝統的な業態が急激に失われていく中でものすごくいいことなんですよ。
ですから、僕自身も日本だけでなく世界でも圧倒的に売れなくてはいけないと思っています。付加価値の高い作品が流通することで、作品にまつわるあらゆる関係者にも波及していくと思います。
その連鎖は僕にとってもいいことであるばかりではなく、日本にも世界にもいいことだと思っています。
大谷: 今日はいろいろとお話をお聞かせいただきありがとうございました。
古賀: こちらこそありがとうございました。とても楽しかったです。
古賀崇洋(陶芸家)
1987年、福岡県出身。2010年、佐賀大学文化教育学部美術・工芸課程卒業。
千利休に感銘を受け、作品の存在感を際立たせる意味であえて「反わびさび」を掲げる。モノに内在する力を可視化するためにスタッズを使用し、突出した人物を表現。世の中を変えていくような際立った存在を磁器によって結晶化する。
2019年、六本木ヒルズA/Dギャラリーで個展を開催。2018年、パリ三越伊勢丹での展示会に出品。2019年、人気アニメ「東京喰種」、スポーツブランド「adidas」、ファッションブランド「CoSTUME NATIONAL」、筝とEMDのパフォーマンス集団「TRiECHOES」とのコラボ作品を発表するなど活躍の場を広げている。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp