読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第5節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第5節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第6章は「教育の現場から」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジアの学校教育現場を観察して得た学びをヒントに、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第6章 教育の現場から

第5節 激しさのウェルビーイング

「幸せ」と聞くと、どうしても「昼下がりのお花畑で走り回る子供たち」を想像してしまうのは私だけでしょうか?春の暖かい日差しの下で聞こえる笑い声。遠いようで近いような花の香り。なぜかそういったものが瞬時に頭に思い浮かびます。

こういうものは恐らく、「幸せ」の典型なのでしょうが、では「幸せ」は型やパターンなのかと言われれば、それも違うような気がします。もちろん決まった型が存在する人もいるでしょうが、型通りのものだけが幸せかと言うと違うでしょう。「昼下がりのお花畑で走り回る子供たち」は、私にとって典「型」かもしれませんが、それが一番に思い出されることに違和を感じずにはいられません。もっと自由に「幸せ」を思考したいなと思うのです。

「幸せ」の幅広さ。今回は、ベトナムの学校で見た光景からそれについて考えてみたいと思います。この経験は間違いなく、私の「幸せ」の自由さを押し広げています。

この連載では何度も登場している、ベトナムのビンフック省。経済都市ホーチミンから車で5~6時間ほどの場所にあり、カンボジアと国境を接する省です。私はこの場所でいくつかの活動を行いましたが、その1つが高校訪問でした。英語教育にかなり力を入れるその学校は、ビンフック省各地から生徒が集まるエリート校でした。

校舎正面。ベトナム国旗がなびく

訪問前日、アクティビティの内容を確認していると、担当者からいきなり「明日は学校の生徒とディベートしてもらいます」との知らせが。唐突な発言に戸惑いながらも、訪問団の中から数人の学生が選ばれました(ディベートに何かとトラウマを抱える私は幸い選ばれなかった)。

当日、学校についてみると、なるほどエリート校の風格があります。ベトナムの田舎町では一際頑丈な建築で、校庭の真ん中に高々とそびえるベトナム国旗が厳かな雰囲気を演出しています。大きな講堂での盛大なウェルカムセレモニー(第4章第4節参照)を終えた私たちは、ディベートのために教室へ移動しました。

ドアをくぐり抜けると、緊張した面持ちの学生が後方にざっと40人ほど、前方には彼らよりももっと緊張した様子の学生が4人いました。エリート校と言えど、外国からの使節団がその学校を訪問するのは珍しいことのようで、初めて見る「日本人」に興奮と緊張を覚えていたのでしょう。さらに前方の4人は、そんな「日本人」とこれからディベートをするのですから、なおさらです。

ディベートの様子

さて、ディベートが始まると、緊張の糸は何倍も強く張られました。高校生たちは、さながら鬼のようにペンを走らせ、時間いっぱいまで使って主張を行います。訪問団のチームも負けじと応戦し、ディベートはまるで戦場。さらに驚いたのは、観客側の学生までもノートに何かをメモし続けていたことです。誰かとお喋りにふけっていたり、携帯をいじっている生徒は1人としておらず、皆まるで自分が参加者であるかのように意識を集中させて、数メートル先の攻防に自分を重ね合わせているようでした。

結局どちらが勝利したか、私はいまいち覚えていないのですが、それよりも印象深く残っているのは、高校生たちが目の前の学びの機会を逃さまいと躍起になっていた姿です。いや、「躍起になっていた」というよりも、彼らはその必死さの向こうに確かに「幸せ」を見据えていたような気がします。それは単純に、英語を習得して将来ビッグになる!みたいな野望ではなくて、必死に学ぶことができる自分自身に対する満足感のようなものです。

ディベートは免れたものの、テレビのインタビューに捕まった筆者

私はここに、ウェルビーイングの新たな側面を見たような気がします。つまり、個人の持続的な幸福というのは決して「のほほん」とした「お花畑」だけではなくて、ガツガツと学びに嚙みつく「激しさ」でもあるのではないか、ということです。

緊張やストレスの多い社会でスローな生活を目指すことは確かにウェルビーイング的ですが、ウェルビーイングには同時に、緊張やストレスも同居していなければならない。高校生たちの姿勢からそう学びました。

貪欲に学ぶ。これからのウェルビーイングには、学びへの激しさもまた必要かもしれません。

ディベートに参加した高校生たちと

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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