KDDIが考える「サステナビリティ経営」とは
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KDDIが考える「サステナビリティ経営」とは

KDDI 最勝寺奈苗 執行役員 Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント「サステナブル・ブランド国際会議2023東京(SB 2023 TOKYO)」。ethicaは例年メディアパートナーを務めており、今年も数多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられた。

今回は、基調講演に登壇したKDDI株式会社の最勝寺奈苗氏に、ethica編集長の大谷賢太郎がお話を伺った。

本企画の位置付け

携帯電話をはじめとする通信サービスは、現代を生きる私たちにとって欠かせないものとなりつつある。こうした状況のなか、通信を支える大手企業「KDDI」は、「サステナビリティ経営」を中期経営戦略の軸に据えて事業を推進している。では、KDDIが考えるサステナビリティ経営とは、どのようなものなのだろうか。

パートナーと一緒にカーボンニュートラルの実現を目指す

カーボンニュートラルの実現について、KDDIは2050年度から2030年度への大幅な前倒しを宣言。この宣言は、CSVや社会課題にビジネスとして取り組む姿勢を象徴するものとして一躍話題になった。その背景には、どんな想いがあるのだろうか。

KDDI 最勝寺奈苗 執行役員 Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

――カーボンニュートラルの実現について「前倒しする」と宣言しました。「リスクマネジメント(CSR視点)」と「ビジネスチャンス(自社の強みを活かした社会課題の解決)」の両立をどのように実現していこうと考えていますか。

当社が掲げるサステナビリティ経営とは、経営戦略に長期志向と社会価値の観点を組み入れて持続的成長を実現することが基本になっています。中長期で解決していくテーマとして6つの重要課題(マテリアリティ)を掲げ、推進しています。そもそも、コーポレートガバナンスコードで定められているものは、従来はリスクの低減でした。現在はさらに変化し、サステナビリティの取り組み全体がリスクの低減と収益化につながることを目的にしています。

重要課題の主なテーマのひとつとして、カーボンニュートラルの実現があります。政府の目標が掲げられていて、企業もそれに従って貢献することが求められており、今回の目標の前倒しには、こうした背景があります。2030年度に前倒しをしたのはKDDI単体で、グループ全体では2050年度のままですが、内部的にはその目標に対して、より早く実現できるように努めていくよう各部門・グループ全体に呼びかけています。

当社の二酸化炭素排出量の98%は、携帯電話の基地局や通信局舎、データセンターといった通信設備の電気使用に起因しています。これをどれだけ抑えることができるのかについて、さまざまなアプローチで取り組んでいます。

――カーボンニュートラルの実現は、どんな体制で進めていますか。

カーボンニュートラルや電気使用量削減などのサステナビリティに関する取り組みは、当社だけで完結するものではありません。パートナーの皆さまと一緒に取り組んでいく必要があると考えています。

少し前から、ドローンの事業を始めました。KDDI総合研究所と三重県鳥羽市が共同して、水上ドローンを活用して水中を撮影するという実証実験を行いました。これにより、藻場の広範囲で定量的な調査が可能になりました。

人が行う場合に比べて危険が少なく、精度の高いデータが得られるのが特徴です。ブルーカーボン(※)の算定が可能になるという意味で、社会的にも意義があると考えています。こうした取り組みは小さなスタートですが、たくさんの場に提供することができれば収益化にもつながると考えています。

※ブルーカーボン……海洋生物の働きによって、空気中から海へ吸収された二酸化炭素由来の炭素

 

――パートナーと一緒に、地球規模の取り組みを推進しているということですね。ディスカッションの中でもお話されていたように、社内では企業のフィロソフィとサステナビリティの両面から取り組みが浸透するように進めているのでしょうか。

そうですね。頭で考えて行動するのではなく、自分のこととして実践することが必要だと思っています。サステナビリティに対する考え方にもよく似ていて、実践することを重視しています。

 

――一般的に、大規模な企業では経営と現場の距離が離れやすいように感じています。社会の変化とともに現場の意識も変わりつつありますが、KDDIではどんな状況でしょうか。

KDDIでは経営方針発表会や経営状況説明会などを定期的に行っています。ここでは、業績だけでなく、ビジネスや人財育成の取り組み、サステナビリティ経営において実現すべきことをトップ自ら共有しています。リアルな場に参加できるのは一定の役職以上の人たちですが、後から全社員がオンラインで視聴し、かつ、リアルな場に参加した上司が自らの言葉で部下にフィードバックする仕組みになっています。

昨年から新しい組織になり、サステナビリティ経営を重点的に推進しています。社員の階層に応じて、さまざまな勉強会やワークショップを行っています。

DXを導入した背景と意識の変化

管理部門に所属しバックオフィスの責任者を務める最勝寺氏。成果が見えづらいバックオフィス部門にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入することで、新しい付加価値の創出を推進している。

――どんな背景から、バックオフィスにDXを取り入れたのでしょうか。

DXは変革を意味するものですが、変革を起こすためには危機感を持つ必要があります。特に管理部門は、「これまでやってきたことを続けていく」という姿勢になりやすいです。業務の目的や効率性を意識しないケースもあります。

社会の変化や変化のスピードについていかなければ、企業は取り残されてしまいます。周りの動きを知ることで、自分の立ち位置を知ることができます。その原動力になるものがDXです。働き方改革やコロナ禍での影響により、危機感が急速に芽生えました。

 

――DX取り入れてみて、現場の状況はどうですか。社員の意識の変化があれば教えてください。

 システムを上手に活用することで、人間が行っていた仕事を置き換えていくことが可能になります。ただシステムを導入したら終わりではなく、メンテナンスのための仕組みを構築する必要があります。時代とともに担当社員は変わっていくので、マニュアルがメンテナンスされておらずミスが発生するといったトラブルが起きかねません。

 システムを運用するための部門を強化する必要があると感じています。それにより、業務をしっかり管理することができます。DXに取り組むことで意識の変化が生まれます。最初は受け身だった人も、少しずつ積極的に行動するようになります。

KDDI 最勝寺奈苗 執行役員 Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

非財務指標の分析サービス導入による変化

KDDIでは、アビームコンサルティング社の「Digital ESG」という非財務指標を分析するサービスをトライアル的に導入した。

(参照)Connected Enterprise® for Digital ESG

――今回のサービス導入した背景と現状について教えていただけますか。

非財務情報を開示するためにはデータが必要です。たとえば、女性の有給休暇取得率などのデータです。データを示すことはできても、投資家から「そのデータにどんな意味があるのか」という質問をされると、上手く説明できないこともありました。

そんな状況を改善すべくいろいろと調べるなかで、アビームコンサルティング社の「Digital ESG」というサービスを知り、トライアルとして導入することにしました。

 

――サービスを利用することで、従来は定性的だったものが、定量的に見えてきたということですね。

そうですね。投資家からは、こうした取り組みを進めていること自体を評価していただきました。まだまだスタートしたばかりですが、今後さらに分析をしていきたいと思っています。これからはこれらの取り組みを社内で実装していく必要を感じています。2022年度は相関分析だけでなく、因果関係についての分析も実施しました。

このサービスを利用することで、サステナビリティなどの非財務活動が将来的にどれだけの影響があるのかを具体的な数値で知ることができます。特に管理部門の仕事は、会社への貢献度が見えづらいです。このサービスにより管理部門の貢献度が定量化され、関係する社員のモチベーション向上にもつながっています。

スペースX社との提携により社会の課題解決へ

KDDIは、au通信網においてスペースX社の衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」の利用を開始した。これにより、これまでインターネット通信が困難とされていた山間部や離島地域へのサービス提供、さらには災害対策分野への貢献が期待されている。

――衛星ブロードバンドインターネットを利用開始した背景や現状についてお聞かせください。

モバイルで通信を提供するためには、基地局を建設する必要があります。人口が少ない山間部に基地局を設置するのは私たちにとっては負担が大きく、これまではデータを分析しながら、優先度に応じて基地局建設を進めてきました。

しかし、本来の理想は「どんな場所においても通信がつながる」ことです。現代社会において、通信はお客さまにとって身近な存在であり、ビジネスで利用している人にとっては生命線でもあります。今までつながらなかった地域をStarlinkで補うことはとても重要だと思っています。不便な状況にあったお客さまのニーズに応えていくことは、社会の課題解決につながると感じています。

――災害時などの有事の対応として、通信設備を整える動きも進んでいます。

Starlinkの導入を発表してから、企業からの問い合わせが殺到しています。大手企業であればあるほど、緊急時に通信が断絶してしまうと、顧客や社内の対応に追われることになります。離島や山間部、建設現場などでのニーズも多いです。

スタートアップ企業との連携によりシナジー効果を高める

KDDIでは、スタートアップ企業への出資・支援を積極的に進めている。コーポレート・ベンチャーキャピタルである“KDDI Green Partners Fund”を通じてこれまでに出資した企業は5社であり、5年間で約50億を投資し、スタートアップ企業の技術を活かした事業連携を行っている。

KDDI 最勝寺奈苗 執行役員 Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

――スタートアップ企業の主な支援事例について教えてください。

サステナビリティ経営推進本部のサステナビリティ企画部が中心になり“KDDI Green Partners Fund”というファンドを運営しています。最初に支援したのは、ペロブスカイト太陽電池を開発している株式会社エネコートテクノロジーズです。ペロブスカイト太陽電池は「薄い」「軽い」「曲がる」ことに加えて、発電効率が良いという特徴があります。次世代太陽電池として、従来の技術では発電設備を設置できない場所への導入が期待されています。

2社目は、レアメタルのリサイクルを行っている株式会社エマルションフローテクノロジーズです。これまでもKDDIでは、不要になった携帯電話やスマートフォンのリサイクルを進めてきました。当社が持っているノウハウを活用し、双方が連携することで、一層レアメタルのリサイクル事業を推進できるのではと考えています。

 

――支援しているのは、いずれもKDDIの事業と関連のある企業なのでしょうか。

そうですね。当社が支援している5社はすべて、KDDIと関連性のある事業をしています。ファンドの目的は「パートナーシップにより脱炭素社会を実現すること」です。シナジー効果により、これからも自社のみならず社会のカーボンニュートラル実現に貢献していきます。

取材を終えて

最勝寺氏のインタビューでは、多岐に渡る事業のなかに「サステナビリティ経営」への一貫した考えがあると感じた。

たとえば、単独ではなくパートナーと一緒に事業を進めることや、社員の意識を改革するための仕組みをつくること。また、現場の声を集めたり、他社の分析サービスなどを利用したりして現状を的確に把握すること。

こうした取り組みが幾層にも重なることで、企業と社会が持続的に成長する「サステナビリティ経営」へとつながっていく。経済価値だけではなく、社会価値や環境価値も一緒に向上させるという考え方に、これからも注目したい。

※本記事は2023年2月15日時点の内容となります。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年7月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」を創刊。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。創業12期目に入り、自社メディア事業で養った「情報力」と「アセット」を強みに「コンテンツ」「デジタル」「PR」を駆使した「BRAND STUDIO」事業を展開するほか、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を展開。

【あわせて読みたい】サステナブル・ブランド国際会議2023

KDDI 最勝寺奈苗 執行役員「Xの時代に求められる人財価値を最大化させるサステナビリティ経営とは」

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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ethica編集部

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